なぜANNIHILATORはスラッシュ四天王にならなかったのか——ジェフ・ウォーターズ独裁体制の光と影

ANNIHILATOR ジェフ・ウォーターズ ── なぜANNIHILATORはスラッシュ四天王にならなかったのか——ジェフ・ウォーターズ独裁体制の光と影 バンドストーリー
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1989年、カナダのオタワから出てきた一枚のデビュー作が、当時急成長中のロードランナー・レコードに初のゴールドディスクをもたらした。アナイアレイター(ANNIHILATOR)の『Alice in Hell』である。世界通算300万枚を超えるセールス、欧州と日本での厚い支持、17枚に及ぶスタジオ作品——これだけ並べれば、スラッシュメタルの最前列にいてもおかしくない数字だ。なのに、メタリカ(Metallica)・メガデス(Megadeth)・スレイヤー(Slayer)・アンスラックス(Anthrax)と並ぶ「スラッシュ四天王」の枠に、アナイアレイターの名前は入らなかった。ジェフ・ウォーターズ(Jeff Waters)という一人の作曲家・ギタリスト・プロデューサーが、すべてを一人で組み立ててきたバンドの、入れなかった理由を辿りたい。

アナイアレイターがスラッシュ四天王に入らなかった理由は、カナダ・オタワ発という地理、1989年というデビュー時期、ジェフ・ウォーターズが全権を握る体制ゆえのボーカリスト回転、そしてロードランナー離脱後の北米マーケット不在の重なりにある。音楽的な力量で外れたわけではない。

ジェフ・ウォーターズという一人称で動く設計

アナイアレイターは、1984年にジェフ・ウォーターズがオタワで結成したバンドだ。創設から40年以上、唯一の常駐メンバーはジェフ本人ひとり。ギタリスト・バンドリーダー・作曲家・プロデューサー・エンジニア、時にはベースとリード・ボーカルまで兼任してきた。音楽評論家ジョエル・マカイヴァー(Joel McIver)は2008年の著書『The 100 Greatest Metal Guitarists』で、ジェフをメタル史上3番目に優れたギタリストに挙げている。

この一人称の設計は、初期2作の音の精度を決定的に押し上げた。リフは緻密、ソロは速くて歌い、ドラムとベースの土台に隙間がない。聴くとわかる——一人で全パートを書き、自分で録ってまで通した者だけが出せる「迷いの少なさ」が、ここにある。

同じ設計が、長期的にはバンドの広がりを止める方向にも働いた。ジェフが書きジェフが録るのだから、他のメンバーが入れ替わってもアウトプットの質はぶれない。ぶれない代わりに、外部の声を取り込んで化ける余地が極端に狭くなる。スラッシュ四天王の4組は、メイン・ソングライターと並走するもう一人の人格——ジェイムズ・ヘットフィールド(James Hetfield)の隣のラーズ、デイヴ・ムステイン(Dave Mustaine)の隣のマーティ、トム・アラヤ(Tom Araya)の隣のジェフ・ハンネマンとケリー・キング、スコット・イアン(Scott Ian)の隣のチャーリー——を必ず持っていた。バンドとしての遠心力が、その人格の併走から生まれる。

『Alice in Hell』と『Never, Neverland』はスラッシュ四天王の隣にあった

ANNIHILATOR ジェフ・ウォーターズ——ステージでギターを構える奏者の姿
Photo by Max Brinton on Unsplash

1989年4月17日にロードランナーから出た『Alice in Hell』は、レーベル史上初のゴールドディスクとなった。当時のロードランナーにとって、もっとも売れたデビュー作でもある。テクニカル・スラッシュという呼称をジェフ・ウォーターズの名前に刻み込んだ一枚だ。アルバムはクラシック・ギターの小品「Crystal Ann」で静かに幕を開け、そのまま代表曲「Alison Hell」の暴力的なリフへ雪崩れ込む。この構築の発想は、当時のスラッシュ・シーンに無かった。

🎵 レーベル史上初のゴールド・ディスクを生んだ一枚。
『Alice In Hell』: Amazon

🎬 クラシック・ギターから雪崩れ込むリフが、当時のスラッシュにない構築を聴かせる。

翌1990年8月7日に出た2作目『Never, Neverland』では、スラッシュの暴力性にハーモナイズドのギターラインと速さの効いたメロディが乗り、ジェフの編曲力がさらに前へ出た。公式映像が残るシングル「Stonewall」を一度聴けば、同じ1990年に出たメガデス『Rust in Peace』やスレイヤー『Seasons in the Abyss』と同じ温度で語れる一枚だと、耳でわかるはずだ。

🎬 2作目を象徴する一曲。ハーモナイズドのギターと速さの効いたフックが同居している。

アナイアレイターの世界通算売上は300万枚を超えるカナダ産のヘヴィ・メタルでもっとも売れたバンドという位置を支えているのが、この数字だ。売れた枚数の大半は、カナダの外で出ている。

四天王に並ばなかった理由は、音ではなく時間と地図にある

ANNIHILATOR ジェフ・ウォーターズ——モノクロームで切り取られたバンド演奏
Photo by Tim Toomey on Unsplash

四天王が原型を作ったのは1983年から1986年のあいだである。メタリカが1983年、スレイヤーが1983年、メガデスが1985年、アンスラックスが1985年——シーンの呼び名と顔ぶれは、この3年で固まっていた。アナイアレイターの1989年デビューは、固まった額縁の外側から音を出した時刻にあたる。早い遅いではなく、額縁が閉じた後、という表現の方が近い。

地図の問題も大きい。スラッシュ四天王のうち3組はカリフォルニア州ベイエリアを母体に持ち(メタリカ、スレイヤー、メガデス)、アンスラックスはニューヨーク発。シーン取材記事もMTVの帯番組も、そこに張り付いていた。オタワ発のジェフ・ウォーターズの音が、ロサンゼルスのクラブ・サーキットや東海岸のフェスから生まれる「同窓生の物語」に編まれていくのは、構造上難しい。アナイアレイターは、サクリファイス(Sacrifice)、ヴォイヴォド(Voivod)、レイザー(Razor)と並んでカナダのスラッシュを代表する4組として語られる位置にいる。これは別の国のシーン史であって、米国発のスラッシュ四天王とは別の枠組みの議論になる。

音の側からは、四天王の当事者が証言している。メガデスのベーシストだったデイヴィッド・エレフソン(David Ellefson)は、『Rust in Peace』のリハーサルへ向かう車内で『Alice in Hell』と『Never, Neverland』を流していたと明かした(Blabbermouth、2008年)。四天王の代表作が形になっていく現場の車内で、オタワのバンドの音が鳴っていたことになる。

“Annihilator really is Canada’s thrash band; kind of an extension of the Big Four.”

アナイアレイターは、まさにカナダのスラッシュ・バンドだ。四天王の延長線上にいる、と言っていい。

— デイヴィッド・エレフソン(Megadeth)/Annihilator 公式サイト

そしてロードランナー・レコードは、1993年にアナイアレイターとの契約を解除した。スラッシュという様式そのものが商業的にしぼみ始めた時期と重なる。北米プロモーションの強い後ろ盾を失えば、米国内で四天王と同じ可視性を保つのは難しい。音の質ではなく、流通と取材の地図から外れていったということだ。

ボーカリストが回り続けた40年、ジェフが回らなかった40年

アナイアレイターのメンバー表は、40年で何度も書き換えられてきた。とりわけ回り続けたのがボーカリストの椅子だった。デビュー作のフロントマンだったランディ・ランページ(Randy Rampage)は、『Alice in Hell』のツアーが終わった1989年12月にバンドを離れる。伝わっている理由は、北バンクーバーの波止場で積み上げた仕事の年功を手放したくなかった、というもの。本人はのちに、ジェフとの殴り合いが原因だったと語っている。どちらが本当かは今も割れたままで、残っているのは音楽の外側の事情ばかりだ。バンドはオーメン(Omen)の元シンガー、コバーン・ファー(Coburn Pharr)を迎えて『Never, Neverland』を作った。

その後もボーカリストの席は回り続けた。1990年代後半にはジェフ自身がリード・ボーカルを兼任する時期があった。デイヴ・パッデン(Dave Padden)期、再びジェフ期、そして2022年にジェフがボーカルを退くと、アイスド・アース(Iced Earth)出身のスチュ・ブロック(Stu Block)がライブのフロントを引き受けた。ランディ・ランページは2018年に他界し、コバーン・ファーも2025年2月25日に62歳で他界した。フロントの椅子の重さが、そのままバンドの歴史の重さになっている。

スラッシュ四天王のメイン・ソングライターたちは、隣の人格と長く併走することで「物語」を持ってきた。ジェフ・ウォーターズが選んだ道は逆だ。隣の椅子を回し続けて、自分の音だけは絶対にぶれさせない設計を貫いている。これを独裁と呼ぶか、孤独な完璧主義と呼ぶかは、聴き手の角度の問題でしかない。出てきた音は、誰のものでもないジェフ・ウォーターズ印の音である。

欧州と日本が支え続けた17枚

ANNIHILATOR ジェフ・ウォーターズ——観客で埋まったライブ会場の遠景
Photo by Danny Howe on Unsplash

ロードランナー離脱後のアナイアレイターを支えてきたのは、欧州と日本である。ドイツのバング・ユア・ヘッド・フェスティバル(Bang Your Head Festival)でのフル・セットはブルーレイ化され、日本盤アルバムはその後も出続けた。最新のスタジオ作『Ballistic, Sadistic』(2020年1月24日、シルバー・ライニング・ミュージック/ネヴァーランド・ミュージック)が通算17枚目にあたる。プロデュース・エンジニア・はやはりジェフ・ウォーターズ自身。イングランド北東部ダラムに構えた自前のスタジオ「Watersound Studios UK」で、全部を作り切っている。

2022年2月18日には『Metal II』が届いた。2007年作『Metal』をほぼ全面的に録り直した一枚で、歌うのはスチュ・ブロック、ドラムは元スレイヤーのデイヴ・ロンバード(Dave Lombardo)。新作ではなく、旧曲を今の面子で鳴らし直す作業だ。四天王の枠から外れたまま、別の地図の上で40年を超える線を引いてきたバンドは、いまもジェフの設計図どおりに動いている。

スラッシュ四天王に並ばなかった事実は、アナイアレイターの音の価値を1ミリも削らない。並ばなかった理由を細かく見ていくと、ジェフ・ウォーターズが一人で40年走らせてきたバンドが、これだけの距離を駆け抜けてきた事実のほうが大きく浮かぶ。『Alice in Hell』を聴いたことがないメタル・リスナーがいるなら、四天王の隣でずっと鳴っていた、もう一つのスラッシュの音を、まずそこから確かめてほしい。

カナダ・オタワでジェフ・ウォーターズが一人で始め、17枚のアルバムで40年以上鳴り続けてきた——アナイアレイターは、スラッシュ四天王の隣でその事実を証言し続けるバンドである。
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