THE GHOST INSIDE——2015年バスツアー事故から復活した男たちの物語

The Ghost Inside 復活 ── THE GHOST INSIDE——2015年バスツアー事故から復活した男たちの物語 バンドストーリー
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2015年11月19日朝、テキサス州エルパソ郊外のハイウェイ180号線でツアーバスが対向のトレーラーと正面衝突した。乗っていたのは、ザ・ゴースト・インサイド(The Ghost Inside——カリフォルニア州エルセグンドで2004年に結成された5人組のメタルコア・バンド。両車のドライバー2名が亡くなり、3名のメンバーが重体に陥った。バンドの音は、その朝から長い沈黙に入る。The Ghost Inside の復活に至るまでに、4年半の時間が必要だった。

ザ・ゴースト・インサイドはカリフォルニア州エルセグンド出身のメタルコア・バンドだ。2015年11月のバス事故で活動が止まり、2020年6月にセルフタイトル作で5年半ぶりの新音源を発表、2024年4月に6thアルバム『Searching for Solace』をEpitaph Records からリリースした。The Ghost Inside 復活の物語は新作まで地続きで繋がっている。

事故前夜——『Dear Youth』までの軌跡

2004年、カリフォルニア州エルセグンドで活動を始めた5人は、当初A Dying Dream という名前だった。2006年に ザ・ゴースト・インサイド へ改名し、1stの『Fury and the Fallen Ones』、2nd『Returners』と作を重ねるごとに、メタルコア・シーン内での足場を一段ずつ固めていく。

転機は2012年6月19日リリースの3rd『Get What You Give』だった。Epitaph Records 移籍第一作で、初週Billboard 200の88位に飛び込む。プロデュースはA Day To Remember のジェレミー・マッキノン(Jeremy McKinnon)が担当した。2014年11月の4th『Dear Youth』では同チャート63位まで順位を上げ、シーン中堅から先頭集団へ滑り込む手前まで来ていた。

当時の音は、メタルコアの定型を踏みながら芯の硬さで聴かせる設計だった。ジョナサン・ヴィジル(Jonathan Vigil)のは叙情に流れず、ザック・ジョンソン(Zach Johnson)のリフは中音域を厚く埋め、アンドリュー・タカチク(Andrew Tkaczyk)のドラムが打点で曲を進める。ライブの熱量がスタジオ録音を上回る局面の多い「現場のバンド」として、2014年から2015年は長距離ツアーを連発していた——その移動のひとつが、2015年11月のテキサス行きになる。

2015年11月19日、エルパソ郊外

バスが走っていたのは、アリゾナ州メサへ向かう朝の道だった。現場はエルパソの国境警備隊チェックポイントから東へ8マイルの地点。対向車線から越えてきたトラクタートレーラーと正面衝突し、両車のドライバー——スティーヴン・カニンガム(Steven Cunningham)と、ザ・ゴースト・インサイドのバスを運転していたグレッグ・ホーク(Gregory Hoke)が亡くなった。

車内で寝ていた乗員のうち、ヴィジル、ジョンソン、タカチクの3名が重体だった。タカチクは現場からヘリで集中治療室へ運ばれる。10日間の昏睡から覚めた彼に、医師は右脚を膝の上で切断したと告げた。ヴィジルは首と背中を折り、膝の靭帯を痛め、両足首を折っていた。ジョンソンは下半身の大部分を金属のネジとプレートで組み直すことになり、左足の一部と複数の指が戻らなかった。発信される情報のすべてが、もう演奏は不可能なのではないかという疑いを呼ぶ重さだった。

The Ghost Inside 復活——夜のハイウェイに広がる暗い路面
Photo by Josh Redd on Unsplash

搬送先の病院で仲間の身元確認をしたのは、ベースのジム・ライリー(Jim Riley)だった。全員がパジャマのまま眠っていて、身分証を持つ者がいない。多くは医療的な昏睡の中にいる。赤みがかった髪で左腕に×印が3つ並んでいるのがジョナサン、背が高い金髪で脚に hopeless と彫られているのがアンドリュー——夜勤のマネージャーの隣で、彼はそう一人ずつ言葉にしていった。

4年半の沈黙と、「Yes, there is a future」

表に動きが見えたのは2018年だった。4月17日に事故後初のバンド練習が行われ、4月30日に短い声明が出る。未来はある——そう書いたうえで、その未来がどんな形かはまだ分からないと続けていた。1本のショーかもしれない。数本かもしれない。新曲1曲かもしれないし、丸ごと1枚のレコードかもしれない。3年待った側には、それで十分すぎる重さを持つ言葉になっていた。

タカチクのドラム復帰は義足の導入では済まなかった。7キロ超の義足を残った太腿で持ち上げる形になり、踏み込みの力もコントロールも戻らない。「動きはする。でもパワーが出ない。コントロールもほとんど効かなかった」と本人が振り返っている。突破口を開いたのは父ラリー(Larry Tkaczyk)だった。木工を長く趣味にしてきた父が、義足を着けずに残った脚でペダルを踏める装置を自分の手で作る。呼び名を付けたのは母で、その装置は「ザ・ハンマー」と呼ばれるようになった。Axis Percussion のロングボードを組み合わせた最終形で、事故前に近い精度の連打が戻る。

The Ghost Inside 復活——夜のステージを囲む観客の群れ
Photo by Rafael Garcin on Unsplash

2019年7月13日、ロサンゼルスの The Shrine で凱旋公演が組まれた。屋内ホールの5,000人キャパは数分で売り切れ、会場は建物ではなくその駐車場へ移された。入ったのは8,000人。ヨーロッパから、オーストラリアから、日本から飛んできた客が同じ列に並んでいる。開演前にPAから流れたのは録音された一言だった——今夜ここにいるあなたたち全員がいなければ、俺たちは負けていたかもしれない。この夜の音源はEpitaph から『Rise From The Ashes: Live At The Shrine』として後にリリースされた。

セルフタイトル(2020)と『Searching for Solace』(2024)

2020年4月22日、復帰シングル「Aftermath」が公開される。映像は事故を報じたニュース映像から始まり、音が鳴り出すと砂漠の直線道路に立つヴィジルへ切り替わる。合間に挟まるのは、脚を失ったタカチクがドラムを叩き直していくリハビリの記録だ。冒頭のリフはウィル・パトニー(Will Putney)のプロデュースらしい厚みで鳴り、の質感が事故前と違って聴こえる。喉から押し出す前に、わずかな溜めが入っている。喉だけでなく身体ごと声を運んでいる音だった。

🎬 映像は事故を報じたニュース映像で幕を開け、音が鳴ると砂漠の道路に立つヴィジルへ移る。タカチクがドラムを叩き直すリハビリの記録が挟まれる。

2020年6月5日、Epitaph Records から5thアルバム『The Ghost Inside』が世に出る。プロデュースはパトニーと、ジェレミー・マッキノンが担当した。前作までは各メンバーが個別にパートを録音していたが、本作はスタジオ時間の大半を5人全員が同じ部屋で過ごして作られている——バンド史上初の作り方だった、とライリーが証言している。事故から戻った5人が同じ空気を共有して鳴らした音、という事実が録音の物理的レベルでアルバムに刻まれている。

🎵 事故から戻った五人が同じ空気を共有して録った復帰作。リフは前作より太く、は遅い瞬間がある。その遅さが弱さでなく、確認しながら鳴らす強さに聴こえる。
『The Ghost Inside』: Amazon

11曲のテーマはどれも「失った後に何を残すか」をめぐっている。「Aftermath」「Pressure Point」「Make or Break」のいずれも、事故そのものを直接の歌詞にせず、事故の後に立つ景色を描いている。リフは前作より太く、は前作より遅い瞬間がある——遅さが弱さに聴こえず、確認しながら鳴らしている強さに聴こえる。哀悼の作品ではなく、生き延びた者の手触りで作られた作品となった。

The Ghost Inside 復活——強い逆光に浮かぶ観客のシルエット
Photo by Gabriel Mihalcea on Unsplash

2024年4月19日、6thアルバム『Searching for Solace』が同じEpitaph Records からリリースされた。本作はメタルコアの基本骨格を保ちながら、明確なフック・コーラスへの傾斜を大きく取っている。「Light Years」のサビ、「Cityscapes」の遅い助走から大きく崩れる中盤など、アリーナ規模で響くスケールを織り込んだ瞬間が増えた。5thが事故そのものを背負った重力アルバムだったのに対し、6thは事故後の生活を続けていく音へ重心を移した作品となった。ツアーは北米日程を途中で取り止めている。国際ツアーの8週間が想定を超える負担になった、というのがバンドの説明だった(Kerrang!)。身体は今も回復の途中にある。

🎵 事故後の生活を続けていく音へ重心を移した六作目。「Light Years」のサビや「Cityscapes」の遅い助走から崩れる中盤で、アリーナ規模のスケールが顔を出す。
『Searching for Solace』: Amazon

The Ghost Inside 復活が刻んだメタルコア史の座標

2026年現在のメンバーは、ヴォーカルのヴィジル、リードギターのジョンソン、リズムギターのクリス・デイヴィス(Chris Davis)、ベースのライリー、ドラムのタカチクの5人体制となっている。事故時の中核がそのまま中心軸として残っている事実は、メタルコアの歴史で見ても重い。多くのバンドは脱退・解散・メンバー差し替えで核を失っていくが、彼らは核を残したまま4年半の空白を越えた。

2010年代前半のメタルコア・シーンは、毎年のように先頭が入れ替わる消耗戦のジャンルだった。その消耗戦の最中で活動を凍結したバンドが、4年半後にメンバーを揃えたまま戻ってきて、現役のスタジオ録音を更新し続けている——この事実だけで、ザ・ゴースト・インサイドはメタルコア史の中で特別な座標にいる。

“I want the accident to be a defining moment, but I don’t want it to be the thing that defines us. I would like for the life of the band to be as long after the accident as it was before the accident.”

事故は決定的な一瞬にはしたい。俺たちを決定づけるものにはしたくない。バンドの寿命が、事故のあとも事故の前と同じ長さだけ続けばいいと思っている。

— ジム・ライリー(Jim Riley)/Kerrang!

2024年の『Searching for Solace』というタイトルは「慰めを探す」と訳される。慰めの場所が見つかったのかは作品の中で明言されない。The Ghost Inside が音を鳴らし続けていること自体が、その問いへの答えに最も近い形で機能している。

事故を題材化して消費する筆致は、彼ら自身が一貫して拒んできた。事故は通過点であって、ブランドの素材ではない。鳴っている音だけがそれを証明する形で運ばれていて、聴いている側にできるのは、その音をできるだけ精度高く受け取ることだった。

WANDERLOUD
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