ドイツのアルバム・チャートで1位を獲った5枚のうち、2枚には新曲が1曲も入っていない。POWERWOLF(パワーウルフ)のチャート1位5回を年順に並べ直すと、そこだけが妙に浮いて見える。狼と司祭の意匠で知られるこのドイツのバンドが母国の頂点へ運んだ荷物は、半分近くが「もう鳴り終わった夜の記録」だった。
記録が新譜と同じ強さで売れる。よそのバンドではめったに起きない。
POWERWOLF のチャート1位は新曲だけで獲ったものではない
内訳はこうなる。『Preachers of the Night』(2013年)、『The Sacrament of Sin』(2018年)、『The Monumental Mass – A Cinematic Metal Event』(2022年)、『Wake Up the Wicked』(2024年)、『Wildlive (Live At Olympiahalle)』(2026年)。
3枚目は2021年末に打った配信イベントを映像作品として仕立て直したもので、5枚目は2024年10月にミュンヘンのオリンピアハレを満員にした公演の記録になる。どちらにも新しく書かれた曲は入っていない。
スタジオ盤が毎回頂点へ届いたわけでもない。『Blessed & Possessed』(2015年)は3位、『Call of the Wild』(2021年)は2位で止まっている。新譜が届かなかった年があり、公演の記録のほうが上まで行った年がある。
ライブ作品の順位は、時間をかけて上がってきた。2016年の『The Metal Mass – Live』は4位に入っている。同じ性格の作品が、10年後には1位まで届いた。この10年で変わったのは曲ではなく、彼らの公演に金を払う人の数のほうだ。
2024年の巡業はバンド史上でいちばん大きなアリーナ公演の連なりで、その最終日がオリンピアハレだった。2026年の2月から3月にかけても、コペンハーゲンからロンドンまで欧州のアリーナを回る日程が続いている。ハンマーフォール(HammerFall)を帯同しての長丁場だ。
“Mit einem Live-Album auf Platz 1 der Charts zu landen, ist der pure Wahnsinn – damit hätten wir nie gerechnet!”
「ライブ・アルバムでチャート1位に立つなんて、まったくどうかしている——こんなことは一度も計算に入れていなかった」
— マシュー・グレイウルフ(Matthew Greywolf)/Metal Hammer(ドイツ)
いちばん驚いていたのは、当のバンドだった。
火を吹くオルガンと、ラテン語の合唱
2026年3月7日、ロンドンのOVOアリーナ・ウェンブリー。バンドにとって初めてのこの会場で、欧州ツアーの最終日が組まれた。中央では火の点いたピアノがくすぶり、オルガンはパイプから炎を吐き、手持ちの火炎放射器が客席の上へ弧を描く。リフトで持ち上げられたアッティラ・ドーン(Attila Dorn)が、そこから歌い出す。19曲。
これを毎晩やる。曲の演奏というより、順序の決まった式次第に近い。
オルガンを担当するのはファルク・マリア・シュレーゲル(Falk Maria Schlegel)。歌うドーンは本名をカルステン・ブリル(Karsten Brill)といい、ブカレストの音楽アカデミーで古典声楽を学んでいる。メタルのステージで叫ぶ前に、オペラの発声を通ってきた歌い手だ。
経歴そのものが作り物であることも、この作りに合っている。公式の物語では、グレイウルフ兄弟がルーマニア旅行中にドーンを見つけて誘ったことになっている。マシュー・グレイウルフ本人が、ドーンはルーマニア出身ではないと認めた。2003年にザールブリュッケンで、レッド・エイム(Red Aim)のメンバーたちが芸名と来歴を先に用意してから始めたバンド——それが実際の出発点になる。
衣装も設定も、後から足された飾りとして機能していない。式を成立させるための装置として、最初から動いている。
日本に届いていたのは、その半分
盤は昔から入ってきている。『Wake Up The Wicked』にも国内盤があり、輸入盤に少し遅れて2024年8月に出た。音源を追いかけるだけなら、日本のリスナーは欧州とほとんど同じものを聴いてきたことになる。
残りの半分が、ずっと欠けたままだった。2003年の結成から23年、彼らのステージは一度も日本に来ていない。
音源だけで判断すると、POWERWOLF は「様式が徹底した欧州のパワーメタル」の枠に収まって見える。速いテンポで走り、合唱が分厚く重なり、教会由来の意匠が全面に貼ってある。そこまでは音から取れる。取れないのは、その意匠が客席で何をするかのほう——どの曲がどこで待たれ、どのフレーズが返され、どこで数千人の声が演奏を追い越すか。
この種のバンドは、録音物だと半分しか渡らない。合唱はスピーカーからだと「重ねたコーラス」に聴こえるが、現場では自分の声がその一部になる。オルガンの音も再生装置なら装飾で済み、目の前で炎が出ていれば済まなくなる。同じ曲でも受け取るものが変わる。
ライブ盤をスタジオ盤の劣化した写しとして扱う癖は、聴き手にも書き手にも残っている。以前ライブ盤の名盤7選で、現場の音がメタル史を更新してきた例を並べた。POWERWOLF はその線をもう一歩先へ運んでいて、現場の記録が新譜と同じ順位に並ぶところまで来た。
2026年10月25日、横浜に来る
「FULL METAL JAPAN 2026 ~Powered by WACKEN~」が10月24日と25日、横浜市西区のぴあアリーナMMで開かれる。ドイツの Wacken Open Air が全面的に付いた屋内フェスで、POWERWOLF は25日のDAY2に出演する。初来日になる。同じ日には ANGRA(アングラ)も並ぶ。
予習として曲名を覚えていく必要は、そこまでない。
合唱のパートで口を開ける準備があるかどうかのほうが効く。彼らのアルバムはずっとそのために書かれてきたし、だからこそ、その記録がドイツで5回も頂点に立った。
23年ぶんの式次第が、初めて日本の屋根の下で通しで進む。10月25日の夕方までに、喉を慣らしておくくらいでちょうどいい。

