ダニ・フィルスの絶叫はなぜ 35 年枯れないのか——CRADLE OF FILTH の発声の謎

ダニ・フィルス 発声 ── ダニ・フィルスの絶叫はなぜ 35 年枯れないのか——CRADLE OF FILTH の発声の謎 バンドストーリー
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三十数年前のデモ音源でも、去年出たばかりの新譜でも、あの金切り声は同じ高さで空気を裂いてくる。ダニ・フィルス(Dani Filth)の絶叫だ。クレイドル・オブ・フィルス(Cradle of Filth)の中心に1991年から立ち、ただ一人交代せず鳴り続けてきた喉である。この発声がなぜ35年経っても枯れないのか、声帯を限界まで酷使する歌い方の代名詞のような男が、同世代の多くのスクリーマーが失っていった超高音をなぜ今も保てているのか、そこには根性論では片づかない裏側がある。

ダニ・フィルスの発声が35年衰えない理由は、若い頃の力任せな叫びを制御可能な技術へ作り変えたこと、声帯を専門医のストレッチとマッサージで筋肉として手入れしていること、無理な高音を録音とライブの両面で設計していることにある。2025年の新作でも最高音域のシュリークは健在で、「声を潰した」という長年の噂を本人は明確に否定している。

ダニ・フィルスの発声は本当に衰えたのか

「声を潰した」「もう昔の影でしかない」——この噂はメタル界隈で十年以上ささやかれてきた。本人はこれを「まったくの戯言(absolute rubbish)」と一蹴している。歳を重ねれば声は低くなる、それはフィルス自身も認めるところだ。低くなることと、潰れて出なくなることは別の現象だ、というのが彼の立場である。

彼が守っているのは「若い頃と寸分違わぬ声」ではない。最低音のから最高音のシュリークまで、極端な音域を自在に行き来できる喉の機能そのものを保っている。だから35年前のあの高さが、今もステージで鳴る。

ダニ・フィルス 発声——闇に沈むステージに立つ人影
Photo by Chris Spalton on Unsplash

力任せの叫びから「技術」へ

若い頃の自分について、フィルスの言い方は身も蓋もない。「鍛えていないX-MENみたいに叫んでいた。自分の力をまるで使いこなせていなかった」と振り返っている。やみくもに喉を鳴らしていた時期があった、と本人が認めているわけだ。

その叫びが、年を追うごとに技術へと変わっていった。スタジオでのフィルスの声は、一段から四段まで重ねられることがあり、音量の跳ね方が予測できないほど大きい。エンジニア泣かせの声でありながら、その振れ幅こそがクレイドル・オブ・フィルスのあの禍々しい立体感を生んでいる。

ライブの高音には、機械ではなく身体の処理が入っている。最高音のシュリークへ入る瞬間、彼はマイクをわずかにカップしながら口から引く。電子的なエフェクトではなく、何千回と歌い続けた喉が覚えた間合いなのである。

ダニ・フィルス 発声——煙に覆われたステージの照明
Photo by Raphael Schaller on Unsplash

喉という筋肉を手入れする

声の持続を支えているのは、気合ではない。フィルスは喉を専門に診る指南役を抱えている。声帯は使いすぎれば傷む筋肉であり、その筋肉をストレッチしマッサージで解す、という発想だ。「ドクター・ストロークス」と呼ばれるその人物はウエストエンドの舞台俳優も診ており、声帯の寿命を延ばすためのストローク・マッサージを施すという。

意外なことに、フィルスは大げさなウォームアップをしない。決まった発声ルーティンを延々こなすのではなく、喉をほぐす専門家に「詰まった筋肉」を解いてもらうことで歌える状態を整える。叫ぶための準備が、叫びの反復訓練ではなく筋肉のケアへ寄っている。ここが長持ちの核心だろう。

歌い方そのものを安全側へ丸めたわけではない。声を酷使するスタイルは昔のままで、変えたのはその酷使に耐える身体の管理のほうだった。

ダニ・フィルス 発声——逆光に浮かぶバンドのシルエット
Photo by Nathan Fonteyn on Unsplash

2025年『The Screaming of the Valkyries』が証明したもの

声がまだ鳴っている何よりの証拠は、新譜である。2025年3月、バンドは14作目『The Screaming of the Valkyries』をナパーム・レコーズ(Napalm Records)からリリースした。タイトルに「絶叫(Screaming)」を冠したこの一枚で、フィルスの高音は相変わらず容赦なく突き抜けている。

先行公開された「To Live Deliciously」を聴けば、52歳になった男の喉から出ているとは思えない金切り声が確かめられる。

🎬 2025年の新作からの先行曲。52歳の喉から出ているとは思えない金切り声が突き抜け、潰れたという噂を音そのものが否定してくる。

聴いているのは日本の耳だけではない。海外のレビューも、年輪とともに変わっていく彼の声を前向きに受け取っている。長年このバンドを追ってきた評者が、その受け止めを短くこう言っていた。

“For those of us who’ve been with this band a long time, it’s a joy to hear him find new rhythms and cadences.”

長くこのバンドを追ってきた者にとっては、彼が新しいリズムと節回しを見つけていくのを聴けること自体が、ひとつの喜びなんだ。

— Last Rites/アルバム『The Screaming of the Valkyries』評(Dan Obstkrieg)

歩みを止める気配もない。2026年の春には北米ツアーが組まれ、新たな鍵盤・ボーカルを迎えた編成で15作目の制作もすでに進んでいるという。35年選手の喉は、次の絶叫をまだ準備している。

あの声を、耳で確かめる

言葉を重ねるより、聴いたほうが早い。2004年の「Nymphetamine Fix」には、とシュリークと女声が一曲の中で同居する、クレイドル・オブ・フィルスの振れ幅がそのまま詰まっている。

🎬 2004年の一曲。とシュリークと女声が同居し、クレイドル・オブ・フィルスの極端な音域の振れ幅が一曲にそのまま詰まっている。

最新作の全体像は、このアルバムにある。

🎵 最高音のシュリークを冠した14作目。最低音のから頂点の絶叫まで自在に行き来する喉の機能が、一枚を通して確かめられる。
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潰れたと言われ続けて、潰れないまま35年が過ぎた。ダニ・フィルスの喉は、噂よりずっと頑丈に作られていたわけだ。叫び方を変えないまま、叫びを守る術のほうを身につけた歌い手の声は、当分まだ枯れそうにない。

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