レコード棚に並んだ BARONESS(バロネス)のアルバムには、表紙に題名が刷られていない。そこにあるのは色そのものだ。赤、青、紫、金と灰——聴き手はその色で一枚ずつを呼び分けてきた。BARONESS のアルバムが色で名付けられている理由をたどると、フロントマンのジョン・バイザリー(John Baizley)が全作のジャケットを自分の手で描き続けてきた、その事実に行き着く。
BARONESS のアルバムを束ねる「色」という署名
BARONESS は2003年、米ジョージア州サヴァンナで結成されたバンドだ。スラッジの泥と、プログレッシブな展開と、南部の湿った叙情を一つの音にまとめてきた。初期はローマ数字を冠したEP『First』『Second』を出していて、作品を順番で数える発想がもともと体にあった。
色で呼ぶ習慣の始まりは、本人たちいわく、ほとんど冗談だったらしい。番号の次は色の輪をぐるりと回してみようか、という当時のメンバーの思いつきが種になった。題名を刷らないジャケットだから、聴き手は赤、青、と色で指すしかない。冗談のはずだった思いつきが、バンドを20年束ねる背骨になっていく。
ジョン・バイザリーが描く、もう一つのバンド史
ジョン・バイザリーはボーカルとリズムギターを担い、そのうえで全アルバムの表紙を一人で描く。インクと水彩で、植物と動物と裸身の女性像が複雑に絡み合う画面をつくる。下半分に地上の、肉体的で具体的なものを置き、上半分に精神的で概念的なものを置く——南北の軸で画面を割る描き方を、彼は自分の方法として語ってきた。
絵の血筋はカラヴァッジョのようなバロックの画家にあり、ジョーゼフ・キャンベルの神話論やカール・ユングの無意識論が下敷きになっている。バイザリーの筆は自分のバンドの外でも回り、METALLICA(メタリカ)や Kvelertak、Pig Destroyer のアートワークも手がけてきた。BARONESS の色は、その画家が音と並走して描いた絵の連なりでもある。
2009年の『Blue Record』は、その絵と音が分かちがたく組み合った最初の到達点だった。青の冷たさと、リフのうねりと、コーラスの明るさが同じ温度で鳴る。叙情とヘヴィネスのどちらにも振り切らず、その境目に立って歌う声がここで固まった。
事故が連れてきた「紫」
2012年8月15日、英バース近郊で BARONESS のツアーバスがブレーキを失い、高架から9メートル下へ転落した。9人が負傷し、バイザリーは腕を砕いた。ドラムとベースの二人は脊椎を骨折し、回復ののちバンドを離れている。色の輪を回していた手が、文字どおり止まった瞬間だった。
残ったバイザリーとピート・アダムス(Pete Adams)は、ニック・ジョスト(Nick Jost)とセバスチャン・トムソン(Sebastian Thomson)を迎えて再起する。2015年の『Purple』は事故後の最初の一枚で、デイヴ・フリドマン(Dave Fridmann)の手でまとめられた。傷の暗さではなく、抜けてきた光のほうを鳴らす音になっている。批評の評価も高く、紫はバンドの色のなかでもとりわけ生還の色として記憶されている。
色を使い切るということ——金と灰
2019年の『Gold & Grey』で、BARONESS は赤から始めた色の輪を一周させた。本来なら輪の最後を締めるのはオレンジのはずだった。バイザリーはオレンジを「最も派手な色」と呼び、長く扱いあぐねていたという。
答えは洗面所で降りてきた。灰色の壁の前で、ポケットから出したオレンジ色のガムの包みを見た瞬間に、金と灰の取り合わせがオレンジの派手さを引き取れると閃いた、と本人が語っている。この一枚からギナ・グリーソン(Gina Gleason)がギターとボーカルに加わり、バンドの編成も新しい均衡に入った。色の循環は、ここで静かに閉じる。
色を降りた先にある『Stone』
2023年の『Stone』は、BARONESS のアルバムで初めて色を題名に持たない。石は色ではない。輪を閉じたバンドが次にどこへ向かうのかを示す題でもある。バイザリーはこの作品を、曲ごとに音の質感を変えながら、ほぼリアルタイムで録音して下地まで仕上げたという。
“Baroness eschewing colour-coded nomenclature for their sixth album feels very much like a statement, or the laying down of a marker.”
「6作目にして色の名づけを手放したこと自体が、ひとつの宣言のように——ここに杭を打つ、という意思表示のように響く」
— Louder(英)/BARONESS『Stone』評
結成から20年、同じ編成で二枚続けて作ったのは『Stone』が初めてだった。色を使い果たしたバンドが、人を固定し、足場の名前を題に選ぶ。色という遊びから始まった連作は、色を降りることでようやく完結した——そう聴くと、並んだ表紙が一本の線でつながって見えてくる。
BARONESS のアルバムを順に並べると、ジャケットの色がそのまま一人の画家の20年になっている。赤で始まり、事故をくぐって紫へ着き、金と灰で色を使い切り、石で色から降りた。題名に色を選んだのは、音を聴く前にまず絵を見せたかったからだ。レコードの背に並ぶ色の列は、バイザリーが筆で書いた、もう一つのディスコグラフィである。

