2005年11月、SYSTEM OF A DOWN(システム・オブ・ア・ダウン、以下 SOAD)の5作目『Hypnotize』が世に出た日のことを覚えている人は、それなりにいるはずだ。半年前にリリースされた『Mezmerize』との二枚連作で、彼らはひとつの頂点に到達した。そこから20年、新しいスタジオ・アルバムは出ていない。SYSTEM OF A DOWN は20年、ほぼ「新作なし」のまま動き続けている。
2005年の二部作で、何が完結してしまったのか
『Mezmerize』は2005年5月17日リリースの4作目、『Hypnotize』は同年11月22日リリースの5作目で、半年差で世に出た。プロデューサーはリック・ルービン(Rick Rubin)、二枚連続コンセプト自体が当時の業界では珍しい賭けだった。商業的にはどちらも全米1位を獲得し、批評の側でも代表作としての位置づけが固まっている。
ここで一度走り切ってしまった感覚は、メンバー自身の口からも何度も語られてきた。バンドは2006年に「無期限休止」へ入り、2011年から再結成ツアーを断続的に行いながらも、新譜は出ないまま今日へ至る。
2018年、対立が「公の場」へ出た夏
新作が出ない理由を、メンバーの誰かが秘密にしてきたわけではない。2018年夏、ダロン・マラキアン(Daron Malakian)が英 Kerrang! のインタビューで内情を具体的に語ったことで、対立が一気に表へ晒された。バンドは12曲以上を書き終えていた。彼の言い分はこうだ——曲は揃っている、サージ・タンキアン(Serj Tankian)がレコーディングへ乗ってこない、自分には彼の考えを変える方法が分からない。「SYSTEM のアルバムには作り方というものがある。その作り方でやりたくない人間が、ひとりいる」
サージは沈黙しなかった。彼が出した声明は、断りの理由を条件の形で並べている。新作をやるなら曲の持ち込みを折半にし、出版権も等分にする——本人が冗談めかして「マニフェスト」と呼ぶ要求だった。『Mezmerize / Hypnotize』の頃、創作の主導権も出版権の取り分もダロンへ大きく寄っていた。そこへ戻る形では自分は幸福になれないから砂に線を引いた、と彼は書いている。全項目で折り合えず、レコードの構想は棚上げになった。
ベースのシャヴォ・オダジアン(Shavo Odadjian)は仲裁へ回らなかった。同じ年の12月、彼は「自分たちには過去の全部を超える材料がある」と語り、足を止めているのはサージだという見方を公にしている。ドラムのジョン・ドルマヤン(John Dolmayan)も新作に前のめりだった。4人のうち3人がサージと噛み合っていない——ダロンが口にしたその構図が、そのまま外へ見えてしまった。
2020年、二曲だけ世へ出た「特例」
2020年11月6日、SOAD は15年ぶりに新録音源を発表する。『Protect the Land』と『Genocidal Humanoidz』——アルバムではなく、二曲限定のダブルA面シングルだった。背景は第二次ナゴルノ・カラバフ戦争で、アルメニア系米国人である4人が、祖父母の故郷の窮状に対し動いた結果である。
音そのものよりも、運用の仕方が「20年問題」の輪郭を逆に浮かび上がらせる。プロデュースはリック・ルービンではなく、ダロン自身。リリースに伴ってアルメニア基金(Armenia Fund)へ60万ドル超が寄付された。アルバム制作の合意は依然として無いのに、特例的な目的が立てば4人がスタジオで音を完成させること自体は可能なまま——それが2020年の二曲が示した事実だ。
「新作はないがライブは大きくなる」、2025年からの再加速
2019年以降、SOAD が年に鳴らすライブは数えるほどしかなかった。2023年の公演数は1。ラスベガスの Sick New World に出たきりで、その年は終わっている。風向きが変わったのは2025年だ。8月27日のメットライフ・スタジアム(ニュージャージー)から、彼らは北米最大規模のスタジアム・ツアーへ踏み出した。共演はKORN(コーン)のメットライフ2公演、AVENGED SEVENFOLD(アヴェンジド・セヴンフォールド)のシカゴ・ソルジャー・フィールド2公演、DEFTONES(デフトーンズ)のトロント・ロジャーズ・スタジアム2公演という大舞台が組まれた。同世代のニュー・メタル〜モダン・ロックを横断する顔ぶれである。
2026年は、その加速がさらに露骨になる。4月25日、ラスベガスの Sick New World で彼らはヘッドライナーとして25曲を鳴らし、フェスを締めた。5月にはメキシコシティのエスタディオGNPセグロスで2夜。6月29日のストックホルムから始まった UK・欧州のスタジアム・ツアーは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(Queens of the Stone Age)とアシッド・バス(Acid Bath)を帯同して7月18日のワルシャワまで走る。10月にはテキサス初開催の Sick New World にも立つ。新作は出ないのに、ライブだけが世代を更新して大きくなっていく。サージは「アリーナではなくスタジアムをやっている。自分たちには信じがたい」と語り、親子連れで埋まる客席に音楽が世代を越える力を見ている。
“SOAD doesn’t need to make a new album. Their songs are timeless and apply to any generation and any place. IMO it’s better to keep the legacy and give the fans more shows instead of producing a ‘mid’ album.”
SOAD に新作は要らない。あの曲たちは時代を選ばないし、どの世代のどの場所にも届く。凡庸なアルバムを作るくらいなら、遺産をそのままにして、ファンにもっとライブを見せてくれるほうがいい。
— Reddit / r/systemofadown
止めていた側が、入れ替わった
2018年の構図は、そのまま固まってはいない。2025年の初め、ダロンはリック・ルービンのポッドキャスト『Tetragrammaton』で新作の話に踏み込み、「もうそこまで望んでいるか分からない」と口にした。10年前の自分とは違う場所にいる、とも言っている。最後のアルバムから20年以上が経って、どこから拾い直すのか。彼自身がその問いに答えを持っていない。
同じ年の7月、Scars on Broadway の新作を語る NME のインタビューでも、ダロンの向きは変わらなかった。仲間との距離が縮まったのは友達に戻ったという意味であって、アルバムの話とは別だ、と彼は言う。「俺たちの間にくさびを打ち込むのは、いつだってアルバムのことだった。正直、そこへ踏み込むのが少し怖い」
サージのほうは、2025年3月に別の角度から釘を刺している。「書き上がったアルバムなど存在しない」——過去の作曲セッションから未発表の一枚が眠っているという長年の噂を、彼はここで断ち切った。7年で、扉を押さえている人物が入れ替わった。2018年に押さえていたのはサージで、2025年にそこへ背を向けているのはダロンだ。合意の相手が入れ替わっただけで、合意そのものは一度も成立していない。
4人がそれぞれの「外側」で出している答え
新作合意が無いままでも、メンバー個々の創作は止まっていない。ダロン・マラキアンは Scars on Broadway(スカーズ・オン・ブロードウェイ)名義で活動を続け、2025年7月18日——彼の50歳の誕生日に3作目『Addicted to the Violence』をリリースした。全10曲、ほぼ全パートをダロン自身が演奏し、プロデュースまで一人で担っている。先行曲「Killing Spree」のビデオには、SOAD で形にできなかった重さがそのまま乗っている。
サージ・タンキアンも止まっていない。2024年9月にソロEP『Foundations』、2025年10月24日にアルバム『Covers, Collaborations & Collages』をリリースしている。自伝『Down With The System』(Hachette Books)も2024年5月に出版された。『Foundations』は30年近く前の未発表曲まで遡る archive で、収録曲「A.F. Day」は SYSTEM の初期かそれ以前に書かれた最古の一曲にあたる。本人はこの曲を SYSTEM へ持ち込んだ記憶がないと言い、あの場ならうまく機能しただろうとも認めている。行き場を持たないまま個人の棚に眠っていた曲が、20年目にようやく世へ出た。
シャヴォ・オダジアンは2024年10月、Seven Hours After Violet(セヴン・アワーズ・アフター・ヴァイオレット)でデビュー作を出した。ジョン・ドルマヤンは新作実現の道筋をインタビューで語り続けている。4人とも「SOAD としては出せないもの」を、それぞれ別の場所で実際に出してしまっている。合意の不在と同じだけ、この事実が「新作の不可能」を内側から固めている。
SYSTEM OF A DOWN の20年沈黙、その内側をどう読むか
SOAD の20年沈黙の正体は、単純な仲違いで説明がつかない。アルバムという形式に対して4人が別々の答えを持ち、その答えは時間とともに動いてきた。ライブで一緒に立つこと、目的が立てば録音すること、それぞれの場所で音を出し続けること——この20年、そのどれも続いている。止まっているのはアルバム1枚を全員で完成させる工程で、そこだけがどの側からも動かない。
スタジアムを満杯にする2026年の彼らを見て、新作の予兆を読み取りたくなる気持ちは分かる。会場が大きくなるほど、6作目を出す理由は薄くなっていく。届くとしても、それは「SOAD のアルバム」というより、2020年の二曲のような別の特例として現れるだろう。
『Hypnotize』を20年後に聴き直すと、当時とは違う響き方をする。メンバーは個々の名義で音楽を更新し続けてきた。ステージへも戻り、2020年には特例として2曲だけ録音した。アルバム1枚を全員で完成させる、という形式だけが、その20年でずっと止まったまま今に至っている。

