『Slaughter of the Soul』が放った最後の一閃が、トマス・リンドベリ(Tomas Lindberg)の絶叫と全パートの収束で90年代スウェディッシュ・メロデスのアイコンになった。だが同じ時期、同じイェーテボリ周辺で、同じ熱量を鳴らしながら大舞台に出られなかった作品が、何枚も並走していた。
ユーカリスト(Eucharist)『A Velvet Creation』(1993)——スウェディッシュ・メロデスの始発駅
ユーカリスト(Eucharist)が1993年に Wrong Again Records から『A Velvet Creation』を出したとき、ドラムを叩いていたダニエル・エルランドソン(Daniel Erlandsson)は1976年生まれ——録音の時点でまだ十代だ。デビュー作を録り終えるとバンドはいったん解散し、メンバーは散っていく。エルランドソンはイン・フレイムス(In Flames)に関わったのち、アーチ・エネミー(Arch Enemy)のドラマーとして現在も叩き続けている。ベースのトビアス・グスタフソン(Tobias Gustafsson)はアルマゲドン(Armageddon)へ移った。
このアルバムが面白いのは、後にメロデスの主流を作る連中が、まだ「主流」を作る前の手探りで鳴らしている点だ。「Greeting Immortality」の冒頭リフは、後年イン・フレイムスが洗練させていく三度ハモり以前の、もう少し荒れたツインギターになっている。「My Bleeding Tears」では旋律が前へ出たがるのに、リズム隊がそれに追いつこうと急がない——その噛み合わなさが、結果としてグルーヴを生む。
“And then when this album finally came out I couldn’t believe it. Just brilliant adventurous metal unlike anything I had heard at the time and I had no idea who they were.”
「で、このアルバムがついに出たときは信じられなかった。当時の俺が聴いてきたどれとも似ていない、とんでもなく冒険的なメタルだ。しかも、こいつらが何者なのかすら分からなかった」
— ミカエル・スタンネ(Mikael Stanne・ダーク・トランキュリティ/Dark Tranquillity), Revolver「5 Best Swedish Death-Metal Albums」
バンドはその後1997年に二作目『Mirrorworlds』を出して再度休止し、2010年代半ばにステージへ戻る。2022年3月には三作目『I Am the Void』をリリースした。本作を聴くなら、ここに後のアーチ・エネミーの精度を読み込みすぎないほうがいい。磨かれる前にしか鳴らなかった音が、ここで一度だけ鳴った。
セレモニアル・オース(Ceremonial Oath)『The Book of Truth』(1993)——イン・フレイムスとハンマーフォールの交差点
セレモニアル・オース(Ceremonial Oath)の1993年作『The Book of Truth』のラインナップは、いま見るとつまずく。ベースはイェスパー・ストロームブラッド(Jesper Strömblad)——後のイン・フレイムスの中心人物。ギターのアンダース・アイワース(Anders Iwers)は、1996年から2017年までティアマト(Tiamat)でベースを弾くことになる男だ。創設メンバーのオスカー・ドロンヤク(Oscar Dronjak)は本作の録音を終えると去り、1993年にハンマーフォール(HammerFall)を立ち上げる。
収録曲は「Prologue」に始まり「Chapter I」から「Chapter X」まで、章立てで並ぶ。冒頭の「Prologue: Sworn to Avenge」から終曲「Chapter X: Hellbound」まで通すと、楽曲の核がイン・フレイムス的なツインギターの旋律でなく、ストロームブラッドのベースのうねりに置かれている瞬間がある。これは後のイン・フレイムスでは聴けない側面だ。
二作目『Carpet』(1995) を最後にバンドは畳まれ、メンバーは各々の名声に向かって散る。『The Book of Truth』は、彼らがイン・フレイムスでもハンマーフォールでもティアマトでもなかった、一瞬の合流地点として残っている。前史の文脈を払って、それ自体として聴けるか——本作の問いはそこにある。
アンアニメイテッド(Unanimated)『Ancient God of Evil』(1995)——ディセクションの隣でこそ聴くべき一枚
アンアニメイテッド(Unanimated)の二作目『Ancient God of Evil』は、1995年3月1日に No Fashion Records からリリースされた。この No Fashion は1993年末にディセクション(Dissection)のデビュー作『The Somberlain』を送り出したレーベルでもある。そのディセクションが『Storm of the Light’s Bane』を Nuclear Blast から放つのが、本作と同じ1995年だ。スウェーデンの暗い旋律がいちばん濃く煮詰まった年に、この一枚は挟まれている。
ブラッケンドな影をまとっているが、楽曲は完全にメロデスの骨格を保つ。「Eye of the Greyhound」の中盤、リードギターが旋律を歌い切らずに一度引いて、リズム隊が前へ出てくる箇所がある。ディセクションが旋律を立てて聴かせるのに対し、本作では旋律と暴力が同じ平面で押し合う。「Life Demise」のブラストとトレモロが切り替わる接点も、ブラックメタル的な激しさへ振り切らずメロデスの位相に留まっている。
バンドは本作の翌1996年に活動を止めるが、2007年に再結成し、2008年に契約を結び直してステージへ戻った。2021年には Century Media から『Victory in Blood』を発表している。先のベスト5でスタンネがこの『Ancient God of Evil』を「見過ごされがちな古典」として挙げていたことを、ここで思い出しておきたい。沈黙が長かったぶん、評価は後から追いついてきた。
ガーデニアン(Gardenian)『Soulburner』(1999)——スタジオ・フレドマンが鳴らした最終局面
1999年、ガーデニアン(Gardenian)はセカンドアルバム『Soulburner』を Nuclear Blast からリリースする。レコーディング場所はイェーテボリの Studio Fredman——AT THE GATES、イン・フレイムス、ダーク・トランキュリティの重要作を録音してきた、北欧メロデスのもう一つの中心地である。ギタリストのニクラス・エンゲリン(Niclas Engelin)はイン・フレイムスにも籍を置いた人物で、本作の旋律設計には同時代のイン・フレイムスとは別角度の手癖が滲む。
本作の特徴は、メロデスの輪郭を残しながらメロディの組み立てをギリギリまで磨き上げている点だ。走り出しの「As a True King」からして、荒さより設計の匂いが立つ。クリーンな歌にはゲストのエリック・ホーク(Eric Hawk・元 Artch)が招かれ、「Small Electric Space」では歌を丸ごと預けられている。デス声とは質感の違う声が入ることで、楽曲のスケール感が一段押し上がる。
2000年作『Sindustries』ののち、バンドは2004年に解散する。2012年に再結成の報が流れたものの新作は出ないまま、2016年に再び活動を止めた。『Soulburner』には、メロデスがマンネリ化に向かう手前の、最後の張り詰めた瞬間が刻まれている。
イェーテボリの音は、AT THE GATES の一発で語り切れる規模ではすでになかった。同時期に同じ熱量で鳴らしていた4枚は、それぞれの形で「本物」を残している。サブスクで全アルバムが揃う時代に、入口を選び直す余地は十分にある。

