BUCKCHERRY はなぜ消えなかったのか——スリーズ・ロック最後の生き残りが刻んだ30年

スリーズ・ロック 30年 ── BUCKCHERRY はなぜ消えなかったのか——スリーズ・ロック最後の生き残りが刻んだ30年 バンドストーリー
この記事は約5分で読めます。

1991年、シアトルから来た重い靄が、サンセット・ストリップのラメとヘアスプレーをひと晩で過去にした。化粧を落とすバンドが続出するなか、わざわざその更地に降り立ったのが バックチェリー(BUCKCHERRY)だ。グランジが片付けたはずの スリーズ・ロックを、1999年のデビューで臆面もなく鳴らした。1995年の結成から数えれば 30年を超える。LA グラムを鳴らしていたバンドはほとんど姿を消したのに、この連中だけがまだ大きな音で回り続けている。

バックチェリーは1995年にカリフォルニア州アナハイムで結成され、グランジ全盛の1999年にスリーズ・ロックでデビューした。一度は2002年に活動を止めたが、2005年に再始動し、結成から30年を超えて同じスタイルを鳴らし続けている。2025年6月には11作目『Roar Like Thunder』を発表した。

グランジが片付けたスリーズ・ロックを、1999年に鳴らす

結成は 1995年、カリフォルニア州アナハイム。ボーカルの ジョシュ・トッド(Josh Todd)とギターの キース・ネルソン(Keith Nelson)が、トッドのタトゥー彫師の紹介で出会ったところから始まる。最初のバンド名はスパロウ、そこから名前を変えてバックチェリーになった。

セルフタイトルのデビュー作『Buckcherry』が出たのは1999年4月。先行シングルの「Lit Up」が、ビルボードのメインストリーム・ロック・チャートで3週1位を獲った。リフはキッス(KISS)の「Shock Me」のイントロから拝借したもので、トラックではセックス・ピストルズの スティーヴ・ジョーンズ(Steve Jones)がギターを弾いている。デビュー盤は DreamWorks にとって初のゴールド認定作になった。

時代は彼らに不利だった。流行の中心はとうにこの音から離れていたのに、ゴールドまで売った。流行を外した場所で支持を集めた事実が、後の30年ぶんの体力をすでに予告していた。

スリーズ・ロック 30年——ステージで演奏するロックバンドのシルエット
Photo by Yannis Papanastasopoulos on Unsplash

一度消えて、『15』で戻ってきた

2作目『Time Bomb』を2001年に出した後、バンドは2002年に活動を止める。メンバーが次々に抜け、作りかけのアルバムは完成しなかった。トッドはソロ作『You Made Me』を2004年に発表して、いったん別の場所で声を試している。

戻ってきたのは2005年。トッドとネルソンが新しい編成で組み直し、2006年に『15』を出した。ここに入っていた「Crazy Bitch」がバンドの代名詞になる。続く「Sorry」はビルボード Hot 100 で9位まで上がり、初のトップ10入りを果たした。下品でやかましいと叩かれ続けた音が、いちばん広い場所へ届いた瞬間だった。

🎵 「Crazy Bitch」「Sorry」を含む、復活第一作。
『15』: Amazon楽天ブックス

ジョシュ・トッドの声を聴く

この声を抜きにバックチェリーは語れない。トッドの歌は、きれいに伸びるタイプではない。喉の奥で擦れて、語尾が砂を噛むようにざらつく。「Lit Up」のサビでピッチがわずかに上ずる箇所、あの不安定さが逆に生っぽさを連れてくる。整えられた歌声が並ぶ時代に、わざと磨かない声を真ん中へ置いている。

歌詞のいかがわしさも、声と切り離せない。コカインやセックスを正面から歌っても、湿った告白には沈まない。トッドの発声が乾いているため、際どい話題が深刻ぶらずに転がっていく。磨かない声と乾いた語り口こそが、スリーズという領域をいまも成立させている芯だ。

🎬 1999年のデビュー曲。喉の擦れがそのまま鳴っている。

小さく回す体制と、3分で終わる曲

30年続いた手応えは、声と楽曲の作りから読むと見えてくる。ネルソンが2017年に去った後、結成メンバーはトッド一人になった。それでもバンドは止まらず、『Warpaint』『Hellbound』『Vol. 10』と短い間隔でアルバムを送り出してきた。大所帯の重い運営に縛られず、出したいときに出せる構えを保っている。

曲そのものも長居しない。2025年6月の『Roar Like Thunder』はナッシュビルの Sienna Studios で録られ、プロデュースは マーティ・フレデリクセン(Marti Frederiksen)が手がけた。収録は10曲、1曲あたり2分から4分台で、アルバム全体でも31分ほどで駆け抜ける。引き伸ばさず、フックが来たら畳む。聴き手を飽きさせない長さに刈り込む判断が、毎作ぶれていない。

スリーズ・ロック 30年——ステージで演奏するロックバンド
Photo by Sebastian Ervi on Unsplash

スリーズ・ロック最後の生き残りが刻んだ30年

現在の編成は、トッドに、2005年の再始動から弾き続けるギターのスティーヴィー・D(Stevie D.)、ギターのビリー・ロウ(Billy Rowe)、ベースのケリー・ルミュー(Kelly LeMieux)、ドラムのフランシス・ルイス(Francis Ruiz)が並ぶ。原メンバーはトッドだけになったのに、音の手触りは初期と切れずに続いている。

11作目をどう作ったか。トッド自身がインタビューでこう説明している。

“And the only stipulation on this effort was to not have any ballads or covers. We just wanted a rocking record, and I feel like we accomplished it.”

「今回の一枚に課した条件はひとつだけ——バラードもカバーも入れない。とにかくロックするレコードにしたかったし、それはやれたと思う」

— ジョシュ・トッド(BLABBERMOUTH.NET/TotalRock のニール・ジョーンズによるインタビュー、2025年)

宣言どおり、バラードは一曲も入っていない。頭から終いまで速い曲で押し切る31分に、30年前の更地で鳴らした音がそのまま残っている。2026年に入ってもツアーは止まらず、彼らは同じ音を運び続ける。

🎵 2025年の11作目。バラード抜き、31分で走り切る。
『Roar Like Thunder』: Amazon楽天ブックス

🎬 表題曲の公式ビデオ。LA で撮られている。

派手な再評価も、劇的な復活劇もない。流行が二度三度と入れ替わるあいだ、バックチェリーは同じ音量で同じ場所に居続けた。その目立たない持続が、更地に降りた1999年の音を今日まで生かしている。新作の31分を浴びれば、理屈より先に身体が分かる。

WANDERLOUD
Amazonのアソシエイトとして、Wanderloud は適格販売により収入を得ています。( PR はアフィリエイトリンク )
タイトルとURLをコピーしました