SAVATAGE『Streets: A Rock Opera』(1991)——プログレメタル史に埋もれた都会の物語

Streets Rock Opera ── SAVATAGE『Streets: A Rock Opera』(1991)——プログレメタル史に埋もれた都会の物語 埋もれた名盤
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1991年10月、SAVATAGE(サヴァタージ)はアルバム1枚をまるごとロック・オペラに費やすという賭けに出た。シアトルからニルヴァーナ(Nirvana)の『Nevermind』が突き上げ、グランジが旧来のハードロックとメタルを脇に追いやる年に、彼らはブロードウェイ流の劇仕立てを真正面からメタル盤に据えた。その結果、本作『Streets: A Rock Opera』は同時代のラジオから弾かれ、後年プログレメタル史を遡る者が必ず通る座礁地点として残った。

『Streets: A Rock Opera』は SAVATAGE の1991年作・6thスタジオアルバム。プロデューサーのポール・オニールが1979年に書いた未上演のブロードウェイ脚本を、クリス・オリヴァ(Criss Oliva)が見つけて次作コンセプトに据えた。架空のミュージシャン DT・ジーザスの興亡を全16曲で追う、ジョン・オリヴァ(Jon Oliva)が主役ボーカルを務めた最後の SAVATAGE 作にして、1996年結成のトランスシベリアン・オーケストラへ繋がる種を含む——Streets Rock Opera は二重三重に位置の重い1枚だ。

引き出しで12年眠ったロック・オペラの脚本

Streets Rock Opera——夜のダウンタウン、街灯に照らされる無人の通り
Photo by Frederico Almeida on Unsplash

本作の物語の骨はもともと、ポール・オニールが1979年に書いたブロードウェイ用のロック・オペラだった。劇場の話は流れて、原稿は彼の自宅の引き出しに12年間しまわれたままになる。1991年、SAVATAGE のスタジオを訪れたオニールの荷物から、これを偶然手に取ったのが弟のクリス・オリヴァで、彼は兄ジョンと相談し「次のアルバムはこの話で行こう」と決めた。プロデューサーの未発表ストック原稿が、契約バンドの次作コンセプトに転がり込んだ瞬間だった。

このいきさつが効いている。脚本は最初からメタル盤のために書かれていない。舞台の物理——場面転換、独白、合唱、暗転と再点灯——をすでに内側に持っている。SAVATAGE はそれを楽曲構成に持ち込み、ハードロックとメタル基調のリフ群の合間に、独白のバラード、合唱風コーラス、ピアノだけの間奏を「劇の場面」として埋めていった。4分のロック・チューンを10本並べてアルバムにする型を、ここで一度ほどいている。

DT・ジーザスという都市の聖人

Streets Rock Opera——夜の歩道を歩く都市の群衆
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主人公の DT は、ニューヨーク・ロワーイーストサイドの大物ドラッグ・ディーラーとして登場する。客たちが彼を「Avenue D の救世主(The Savior on Avenue D)」と呼ぶようになり、その渾名が縮められて Downtown Jesus、略して DT Jesus になる。本業はディール、本心は音楽。地元のバーで弾けば客が湧き、噂が街区を越え、メジャーレーベルが押しかけ、レコードはミリオン、ツアーは即完、短い時間で世界的なフィノメノンに変貌していく。

没落の引き金は自分自身で引いた。DT は自分が捌いていたブツに手を出し、ステージで崩れ、信仰と音楽の境目を見失っていく。物語の後半は彼の自問の言葉が増え、観客の歓声が遠ざかり、最終的には救済の輪郭らしきものに手を伸ばす。伸ばす場所が地上なのか、頭の中なのかは、聞き手の側に渡される。1979年の脚本がディスコ崩れ・コカイン濫用・スターシステムの破綻を題材に書かれていた事実を思い出すと、1991年の聴き手にはまだリアルタイムの肌寒さで届いた寓話だったはずだ。

ジョン・オリヴァが歌い切った最後の SAVATAGE

本作はジョン・オリヴァがリードボーカルで全篇を支えた最後の SAVATAGE 作品でもある。DT という壊れていく男を演じきるため、彼の声は罵り、宣伝マンの口上、酒場の独白、絶望のロングトーンまで全方位に使い切られた。次作『Edge of Thorns』(1993)からは喉の限界とコンセプトの要請でザカリー・スティーヴンス(Zachary Stevens)が新ボーカルに入り、ジョンはバックボーン側へ回る。だから『Streets』は、オリヴァ兄弟の SAVATAGE が「弟のギター × 兄のリードボーカル」で完結した最後の交差点になった。

クリスのギターはこの盤で異様に色数が多い。NWOBHM 直系のブリッツィなリフ、ハーモニクスを多用したリードフレージング、ピアノを邪魔しない弱起のアルペジオを、1曲の中で行き来している。1993年10月17日、彼はフロリダ州のハイウェイで飲酒運転車の正面衝突を受けて30歳で他界する。あとから聴くと、本作のクリスは「自分の最高到達点を1枚に詰め込む」前提で弾いているように響く。もちろん彼自身がそれを意図したわけではなく、聴き手の側が時間軸を後ろから掛け直しているにすぎない。

グランジの波と、評価の遅刻

商業面では、1991年9月の『Nevermind』直撃と完全に競合した。ロック・オペラ、全16曲、約70分、語り入りの大作という時代と真逆のフォーマットは、同年の MTV やラジオの空気からはどうしてもズレた場所に置かれてしまう。Atlantic からのプッシュが入っていたにもかかわらず、本作はバンド最大の商業的成功までは届かなかった。届かなかったのは時代の側であって、盤の中身そのものではない。

批評は当初から割れていた。ロック・オペラとしての構築美を高く取る声と、約70分の長さに含まれる中弛みを指摘する声が並走した。後年プログレメタル史の側から本作を見直す動きが強まり、特に2000年代以降のドリーム・シアター(Dream Theater)系・シンフォニックメタル系の文脈で、「ロック・オペラを1991年にメタル盤として成立させた前例」として参照される頻度が上がっていく。埋もれた、というより、文脈が追いつくのを待たされた盤だ。

TSO の設計図でもある

本作のもう一つの読み方は「トランスシベリアン・オーケストラ(Trans-Siberian Orchestra・TSO)の設計図」だ。ポール・オニールは1996年、SAVATAGE のジョン・オリヴァを共同ライターの中核に据えて TSO を結成する。クリスマスを軸にしたシンフォニック・ロック・オペラの構図、独白と合唱と場面転換を曲の中で扱う手つき、ピアノとディストーション・ギターの並走——これらの組み立てを、本作はメタル盤のなかで先に試している。TSO 結成後の代表曲「Christmas Eve/Sarajevo 12/24」が1995年の SAVATAGE 作『Dead Winter Dead』に先行収録されていた事実も、両プロジェクトの繋がりがいかに早くから走っていたかを示している。

『Streets』を聴いてから TSO の年末公演映像を眺めると、合唱とソロのバトンの渡し方、フックを直球で運ぶピアノの和声、ひとつの主題を16通りの場面で見せるアレンジ術が、同じ家系の異なる代の音に見えてくる。シーズン市場で巨大化した TSO の出発点は、1991年のフロリダのスタジオで先に組まれていたことになる。

聴きどころと Streets Rock Opera の聴き方

Streets Rock Opera——信号機だけが灯る深夜の交差点
Photo by Elric Pxl on Unsplash

場面の核を担う「Streets」「Strange Reality」「Tonight He Grins Again」、ジョンの絶唱バラード「If I Go Away」、ウェールズの伝統子守唄「Suo Gân」を下敷きにしたという「Heal My Soul」、終幕の主題回帰「Agony and Ecstasy」——個別の名曲を抜き出すよりも、全16曲を頭から通して1つの劇として聴くフォーマットを推したい。短いインストやリプライズが、楽曲単独では機能を理解しにくい代わりに、通しの劇としては場面と場面を繋ぐ蝶番として効いてくる。

初聴で疲れたら、何年か経って物語ものへの耐性が付いてからもう一度戻ってきていい盤だ。ロック・オペラは「一気聴き」がフォーマット込みの作法であって、シャッフル再生のために作られた音楽ではない。

1991年と2026年、二つの入口

1991年当時の聴き手にとって、本作は「ハードロックとメタルがブロードウェイの語法を本気で取り込みに来た」事件だった。2026年の聴き手にとっては逆方向で、ドリーム・シアターやシンフォニックメタルが当然のように使う長尺ナレーション・物語構成の出発点のひとつを遡る盤として機能する。どちらの入口から入っても、たどり着く核は同じだ。DT・ジーザスという虚構の男の興亡——その1点にあらゆる装置が集約されていく。

埋もれているのは話題性であって、設計の確かさではない。35年の時差が消える瞬間が、通しで聴くと何度かやってくる。それで十分だと思う。

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