RAMMSTEINのステージは「楽器」だ——火薬と建築でライブを設計する男たち

RAMMSTEIN ステージ ── RAMMSTEINのステージは「楽器」だ——火薬と建築でライブを設計する男たち 裏方列伝
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火炎放射器を構えた男がステージの中央に立っている。キーボードを抱えたまま大鍋に押し込まれたもう一人の男に、火を吹きかけはじめる。観客は笑いながら、火に焼かれそうな同胞をビールを片手に眺めている。「Mein Teil(マイン・タイル)」の名物演出だ。ラムシュタイン(Rammsteinのステージには、こうした「演劇」が曲ごとに組み込まれている。火薬と建築と機械仕掛けで成立しているこの巨大構造物は、音とともに鳴る一つの楽器として設計されている。

ラムシュタインのステージは、フロリアン・ヴィーダーが設計した高さ36メートルの鋼鉄の塔と、専門の火薬会社が支える運用体制の上に成立している。スタジアム1公演を建てるために動くのは制作クルー144人と機材トレーラー47台、燃やす燃料はおよそ1,000リットル。その全てが「曲を鳴らすための楽器」として動く。

「RAMMSTEINのステージは楽器」という設計思想

結成からまもない1990年代、ラムシュタイン(Rammstein)はベルリンの小さなクラブで自前の火を扱っていた。1996年9月、ベルリンの公演でステージ装飾の一部が燃える事故が起きる。バンドはこれを境に専門のパイロ集団FFPを迎え入れ、ボーカルのティル・リンデマン(Till Lindemann)自身も火薬技師の資格を取った。火を演出に組み込む以上、その火を扱う側に責任と免許が要る——この判断が、後年「ステージは楽器」と呼ばれる設計思想の原型になっている。

火は音と同じ階層に置かれた表現要素として扱われている。ファンが「Other bands play, Rammstein burns!(他のバンドは演奏する、ラムシュタインは燃える)」と言いはじめたのも、火が曲の構造そのものに組み込まれているからだ。「Mein Herz brennt(マイン・ヘルツ・ブレント)」で会場の温度が物理的に上がり、観客の身体が縮こまるあの一瞬、火は歌詞と同期した「もう一つの声部」として鳴っている。

36メートルの塔——設計者が替わっても残ったもの

RAMMSTEIN ステージ——夜のステージに集まる観客の群衆
Photo by Jakob Owens on Unsplash

ステージを楽器として扱うには、楽器として組み立てる構造が要る。『Mutter』期のあの舞台——H.R.ギーガー(H.R. Giger)の生体機械とジャケットの胎児から着想した巨大な子宮がせり出す舞台——を設計したのはリロイ・ベネット(LeRoy Bennett)だった。プリンス(Prince)、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)、マリリン・マンソン(Marilyn Manson)の舞台を手がけてきた照明・演出のデザイナーで、2016年のフェス・ツアーまでラムシュタインの舞台を作り続けた。

2019年からのスタジアムツアーで、その設計者が替わる。フロリアン・ヴィーダー(Florian Wieder)——欧州の歌謡祭ユーロビジョン(Eurovision)の舞台美術で知られる建築系のデザイナー——が、フリッツ・ラング(Fritz Lang)の1927年の映画『メトロポリス(Metropolis)』に着想を得たとされるスチームパンク調の塔を立てた。2019年のスタジアム・ステージは、ラムシュタイン史上はじめてベネットの手を離れた設計である。デザイナーが交代しても、ステージを楽器として建てる発想のほうは残った。

数字で読む建築の規模

2019年からのスタジアムステージは、高さ36メートル、幅60メートル。中央にそびえる黒鉄の塔には45平米の自動可動式映像スクリーンが内蔵され、メンバー6人を載せる昇降プラットフォームは舞台から26メートルの高さまで上がる。ステージ構造の運搬には21台編成のトレーラーが2組、これとは別に音響・照明・映像・火薬を積む機材トレーラーが47台。会場に着いてから鳴らせる状態にするまで、61時間・7日がかりの組み立てが要る。

前段のMade in Germanyツアー(2011年10月〜2013年8月・全104公演)でも、幅24メートル×高さ15メートルの鋼鉄構造に380,000ワットの音響システム、トラック25台、クルー125人が動いていた。あの規模の舞台が、スタジアムでさらに倍近くへ膨らむ。「楽器を建てる」という言い方の実体は、この物量にある。

火薬を握る男たち

RAMMSTEIN ステージ——会場の頭上に上がる花火と観客のシルエット
Photo by Deep Boda on Unsplash

火薬の運用は、バンドの外側にいる専門家を巻き込んで成立している。FFPを率いるニコライ・サボトカ(Nicolai Sabottka)は、ラムシュタインのプロダクション・ディレクターであり、火薬効果そのものの開発者でもある。ドレスデンの爆発物学校で訓練を受け、舞台近接火薬・空中花火・火薬製造・映像用の特殊効果まで許可を持つ。彼が加わった当初、この種のショーはほとんど許可が下りなかった。当局と主催者の信頼を取り戻すのに何年もかかった、と本人が振り返っている。

いまは効果ごとに安全コンセプトを添え、全会場を事前に下見し、当局の質問には開いた形で答える。1公演で燃える燃料は、およそ1,000リットル。機材トレーラー47台のうち3台が火薬・特殊効果専用に充てられる。ステージで響く爆音の半分以上は、観客の目に映らないこの手続きの上に乗っている。火薬の派手さは、現場ごとの調整と書類審査の上にしか成立しない。

“It takes a tremendous amount of energy to show all employees again and again how important safety is in touring and individual shows. Our biggest enemy is ‘routine’.”

ツアーでも単発の公演でも、安全がどれだけ重要かを全スタッフに何度も示し続けるには、とてつもないエネルギーが要る。我々の最大の敵は「慣れ」だ。

— ニコライ・サボトカ(Metal1.info インタビュー・2019年)

ティル自身も火薬技師の資格を持っていて、効果のアイデアはバンドと会社の双方から出る。ティルが背負う火炎バックパックは、FFPが自社の開発部門で作り上げたものだ。

「Mein Teil」と「Mein Herz brennt」——演出が曲の読みを変える

火が組み込まれることで、曲の意味そのものが変わって聴こえる楽曲がある。「Mein Teil」はドイツで実際に起きた食人事件を題材にした4分半の曲で、スタジオ版では工業的に重いリフが押し寄せて終わる。ライブでは、ティルがコック帽をかぶってキーボードのフレイク・ロレンツ(Christian Flake Lorenz)を巨大な鍋へ押し込み、大きさの違う火炎放射器を三度取り替えながら炙り続ける演劇に変わる。最後に持ち出されるのは移動式のキャノンだ。フレイクは耐火スーツを着込み、自分の顔をかたどった仮面をかぶって鍋に座り、最後は白旗を振って降参してみせる。

この耐火スーツの案は、サボトカがテレビドラマ『デクスター(Dexter)』のワンシーンから思いついたものだという。曲の歌詞が「食う/食われる」を行き来する構造を、ステージは火炎放射器の大型化として可視化している。

「Mein Herz brennt」はアルバム『Mutter』の冒頭曲で、不眠と悪夢の比喩としての炎を歌っている。ライブではティルが炎を噴く金属の天使の翼を背負って現れ、歌詞の比喩を物理的な熱として観客に渡す。スタジオ版で抽象化されていた炎が会場の温度として戻ってくる時、観客の身体が反応する位置が変わる——歌詞を聴いた頭から、熱を浴びる皮膚へ、感覚の重心が下りる。

🎵 「Mein Teil」を収めた工業的な重さのアルバム。ライブで火炎放射器の演劇に化ける前の、4分半のリフがスタジオ版としてどう鳴っていたかを確かめられる。
『REISE, REISE』: Amazon

🎬 食人事件を題材にした一曲で、歌詞が「食う/食われる」を行き来する構造そのものが火炎放射器の大型化として可視化される。ステージ演出が曲の読みを変える実例だ。

🎬 不眠と悪夢の比喩としての炎を歌うアルバム冒頭曲。ライブでは炎を噴く天使の翼を背負って現れ、抽象化されていた炎が会場の温度として観客の皮膚へ戻ってくる。

ステージを動かす400人——「6人で鳴らす楽器」ではない

RAMMSTEIN ステージ——夜の野外ステージを取り囲む観客
Photo by Negley Stockman on Unsplash

ラムシュタインは1994年の結成からメンバーの入れ替えが一度もない。ティル・リンデマン、リード・ギターのリヒャルト・クルスペ(Richard Kruspe)、リズム・ギターのパウル・ランダース(Paul Landers)、ベースのオリヴァー・リーデル(Oliver Riedel)、ドラムスのクリストフ・シュナイダー(Christoph Schneider)、キーボードのフレイク・ロレンツ。この6人のままで30年を超えた。だがステージを成立させているのは、6人を含むはるかに大きな人数だ。

スタジアムツアーに帯同する人員は、トラック運転手からミュージシャンまで含めて265人。うち制作クルーが144人で、各会場ではさらに100〜150人のローカルクルーが組み立てに加わる。会場を建てている最中の現場には、400人を超える人間が入る。6人が楽器を構えて立つあの場所は、その下と上と裏側で動く人々の仕事の上に乗っている。ラムシュタインのステージは6人で鳴らす楽器ではなく、400人で建てて鳴らす楽器だ。

「ステージは楽器」という言い方は比喩ではない。火の一発ごとに安全コンセプトと当局の許可が要り、その手続きを通す仕事まで含めて演奏が成立している。ラムシュタインが鳴らしているのは、音と同じ重さの工学と事務でもある。

ラムシュタインのステージを「楽器」と呼ぶ言葉を聞くたびに、燃料の量や塔の高さや人員の数字を思い出す。あの音は400人で建てた構造物が6人の演奏とともに鳴った音であり、だから一度ライブを浴びた人間は、しばらくスタジオ版に物足りなさを覚える。

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