火炎放射器を構えた男がステージの中央に立っている。キーボードを抱えたまま大鍋に押し込まれたもう一人の男に、火を吹きかけはじめる。観客は笑いながら、火に焼かれそうな同胞をビールを片手に眺めている。「Mein Teil(マイン・タイル)」の名物演出だ。ラムシュタイン(Rammstein)のステージには、こうした「演劇」が10曲以上組み込まれている。火薬と建築と機械仕掛けで成立しているこの巨大構造物は、音とともに鳴る一つの楽器として設計されている。
「RAMMSTEINのステージは楽器」という設計思想
結成からまもなくの1990年代半ば、ラムシュタイン(Rammstein)はベルリンの小さなクラブで楽器のほかに鉄パイプと松明を持ち込み、メンバー自身が火を扱っていた。1996年のベルリン公演で天井に仕掛けた花火が落下する事故が起きたのを受けて、ボーカルのティル・リンデマン(Till Lindemann)はドレスデンの爆発物学校で正式な火薬資格を取得した。火を演出に組み込む以上、その火を扱う側に責任と免許が要る——この職人的な判断が、後年「ステージは楽器」と呼ばれる設計思想の原型になっている。
ラムシュタインにおいて、火は音と同じ階層に置かれた表現要素として扱われている。観客が「Other bands play, Rammstein burns!(他のバンドは演奏する、ラムシュタインは燃える)」と言いはじめたのも、火が曲の構造そのものに組み込まれているからである。「Mein Herz brennt(マイン・ヘルツ・ブレント)」のオープニングで会場の温度が物理的に上がり、観客の身体が縮こまるあの一瞬、火は歌詞と同期した「もう一つの声部」として鳴っている。
36メートルのステージ塔——ベネットとヴィーダーの建築
ステージを楽器として扱うには、楽器として組み立てる構造が要る。ラムシュタインは2001年の『Mutter』ツアー以来、リロイ・ベネット(LeRoy Bennett)と組んできた。プリンス(Prince)、キッス(KISS)、マリリン・マンソン(Marilyn Manson)の演出を手がけた照明・舞台のデザイナーで、「ステージそのものを楽器化する」発想の中核を担っている。2019年からのスタジアムツアーでは、これにフロリアン・ヴィーダー(Florian Wieder)が加わった。ヴィーダーは欧州の歌謡祭ユーロビジョン(Eurovision)の舞台美術で知られる建築系デザイナーで、フリッツ・ラング監督1927年の映画『Metropolis(メトロポリス)』を下敷きにベルリン・スチームパンク調の塔状ステージを設計した。
数字で読む建築の規模
2019年からのスタジアムステージは、高さ36メートル、幅60メートル。中央にそびえる黒鉄の塔の中には45平米の自動可動式映像スクリーンが内蔵され、メンバー6人を載せる昇降プラットフォームは舞台から26メートルの高さまで上昇する仕様だ。ステージ機材の運搬には21台のトレーラーが片道、合計42台が動員される。前段のMade in Germanyツアー(2011〜2013、全104公演)でも、24メートル×15メートルの鋼鉄構造に380,000ワットの音響システムと25台のトラック、125人のクルーで構成されていた。会場ごとの組み立てに約1週間かかるこの規模感が、「楽器を建てる」という言い方の物理的な実体である。
火薬を握る男たち——ティルからニコライへ
ライブで使われる火薬の運用は、バンド外部の専門家を巻き込んで成立している。長年ティル自身が火薬資格者として演出全体の監督を担ってきたが、近年その役割はFFP社のニコライ・サボトカ(Nikolai Sabottka)が引き継いでいる。サボトカもドレスデンの爆発物学校で訓練を受けており、舞台近接火薬・空中花火・火薬製造・特殊効果のすべての許可を所持する人物だ。彼はFFP代表として各公演会場の所轄消防当局と事前に協議し、会場サイズと法規制に合わせて演出規模を毎回設計し直す。火薬の派手さは、現場ごとの調整と書類審査の上にしか成立しない。
1ツアーで使用する火薬量と燃料の量は、機材トレーラー47台のうち3台が火薬・特殊効果専用に充てられる規模に達する。火薬と燃料の積載は国境を越えるたびに書類が更新され、現場の消防士は会場の規制によって0人から100人前後まで配置される。ステージで響く爆音の半分以上は、観客の目に映らないこの事務作業によって担保されている。
「Mein Teil」と「Mein Herz brennt」——演出が曲の読みを変える
火が組み込まれることで、曲の意味そのものが変わって聴こえる楽曲がある。「Mein Teil」はドイツで実際に起きた食人事件を題材にした楽曲だ。スタジオ録音版は工業的な6分間の重いリフが押し寄せる構成だが、ライブになるとティルがコック帽をかぶってキーボードのフレイク・ロレンツ(Christian Flake Lorenz)を巨大な鍋に押し込み、火炎放射器で炙り続ける7分の演劇に変わる。フレイクはNomex素材の耐火スーツを着込んでおり、最後は鍋から白旗を振って降参してみせる。曲の歌詞が「私の一部」と「食う/食われる」を行き来する構造を、ステージは火炎放射器の大型化(小型→中型→大型→キャノン砲級)として可視化している。
「Mein Herz brennt」はアルバム『Mutter』の冒頭曲で、不眠と悪夢の比喩としての炎を歌っている。ライブではティルが燃え盛る天使の翼を背負って登場し、歌詞の比喩を物理的な熱として観客に渡す。スタジオ版で抽象化されていた炎が会場の温度として戻ってくる時、観客の身体が反応する位置が変わる——歌詞を聴いた頭から、熱を浴びる皮膚へと、感覚の重心が下りる。
ステージを動かす144人——「6人で鳴らす楽器」ではない
ラムシュタインは結成以来メンバーの入れ替えが一度もない。ティル・リンデマン、リード・ギターのリヒャルト・クルスペ(Richard Kruspe)、リズム・ギターのパウル・ランダース(Paul Landers)、ベースのオリヴァー・リーデル(Oliver Riedel)、ドラムスのクリストフ・シュナイダー(Christoph Schneider)、キーボードのフレイク・ロレンツ、この6人が30年やってきた。だがステージを成立させているのは、メンバー6人を含むはるかに大きな人数だ。
2019年以降のスタジアムツアーでは、常設の制作クルー144人と、各会場で増員されるローカルクルー100〜150人がステージを組み立てている。47台の機材トレーラーのうち3台が火薬・特殊効果用、残りは音響・照明・舞台機構・映像に割り振られる。6人のメンバーが楽器を構えて立つあの場所は、その下と上と裏側で動く300人近くの仕事の上に乗っている。ラムシュタインのステージは6人で鳴らす楽器ではなく、300人で建てて鳴らす楽器なのである。「ステージは楽器」という言い回しは、メンバー数を超えた共同作業の規模を指して使われている。
ラムシュタインのステージを「楽器」と呼ぶ言葉を聞くたびに、火薬の量や塔の高さや人員の数字を思い出す。あの音は300人で建てた構造物が6人の演奏とともに鳴った音であり、だから一度ライブを浴びた人間は、しばらくスタジオ版に物足りなさを覚える。


