メロデス三羽烏のうち、なぜ IN FLAMES だけが「裏切り者」と呼ばれたのか——変節の経済学

In Flames 裏切り者 ── メロデス三羽烏のうち、なぜ IN FLAMES だけが「裏切り者」と呼ばれたのか——変節の経済学 メタル裁判
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スウェーデンのイエテボリ、同じバス路線の停留所で顔を合わせる若者たちがいた。後にメロディックデスメタルと呼ばれる音を、彼らはほぼ同時に鳴らしはじめる。三羽烏とされたイン・フレイムス(In Flamesアット・ザ・ゲイツ(At the Gatesダーク・トランキュリティ(Dark Tranquillity。同じ街、同じ仲間、ほとんど同じ出発点から始まったのに、長いあいだ「裏切り者」の烙印を押されたのは In Flames だけだった。

三羽烏のうち In Flames だけが裏切り者と呼ばれたのは、三組で唯一、メインストリームの音とアメリカ市場へ舵を切ったからだ。商業的な成功を手にする代わりに、出自であるイエテボリの音と、それを愛したファンの信用を支払った。

同じバスに乗っていた三人

三組はほとんど一つの仲間うちから生まれている。デビュー作の時点で、二人のボーカリストが互いのバンドでマイクを握っていた。In Flames の最初の音源『Lunar Strain』で叫んだのはミカエル・スタンネ、Dark Tranquillity のデビュー作『Skydancer』で歌ったのはアンダース・フリーデンだ。やがて二人は所属を入れ替える。スタンネは Dark Tranquillity の声に収まり、フリーデンは In Flames の声になった。

音そのものも近かった。NWOBHM 由来のツインリードの叙情に、デスメタルの激しさを溶かし込む手つきは、三組に共通する設計図だった。1995年から翌年にかけて出た三枚——At the Gates『Slaughter of the Soul』、Dark Tranquillity『The Gallery』、In Flames『The Jester Race』——が、このジャンルの背骨をほぼ同時に立てた。どれを先に聴いても、隣の二組の音が透けて見える距離にあった。

In Flames 裏切り者——silhouette photo of crowded people
Photo by Jorik Kleen on Unsplash

In Flames が裏切り者と呼ばれた日

変化は2002年の『Reroute to Remain』で表面化した。咆哮の合間にクリーンな歌が差し込まれ、刻みはオルタナティブロックの重心へ寄っていく。デスメタルのリフは残っていても、一枚を通して真正面からのメロデスは鳴らない。古いファンは横っ面を張られたように感じる。続く2004年の『Soundtrack to Your Escape』で、その方向へいっそう体重が乗った。

“This isn’t melodic death metal at all. This is slightly heavier Linkin Park with catchier choruses, and in some cases, less lame lyrics.”

こんなものはメロデスでもなんでもない。ちょっと重くしたリンキン・パークに、耳に残るサビと、たまにマシな歌詞を足しただけだ。

— Encyclopaedia Metallum ユーザーレビュー(Razakel)

面白いのは、その「裏切り」が商業的には大当たりだった点だ。とっつきやすくなった音は新しい聴き手を大量に呼び込み、アメリカのメタルシーンで In Flames の名前を一気に押し上げた。本国の古参が終わったと切り捨てるのと同じ時期に、海の向こうでは『Soundtrack to Your Escape』がビルボード200へ初めて食い込んでいる。同じ一枚が、裏切りと成功の両方の証拠になった。

裏切りの物差しとして持ち出されたのは、彼ら自身の『The Jester Race』だった。物悲しいハーモニーが疾走に編み込まれた1996年のこの音が、ファンのなかで「本物の In Flames」として凍結されていたからだ。

🎵 疾走の裏でツインリードが歌う。「Moonshield」の頭からその配合が動き出し、最後まで速度と叙情が同じ体で走る。
『The Jester Race』: Amazon楽天ブックス
In Flames 裏切り者——grayscale photography of people gathering in event
Photo by Tymofii Tarasov on Unsplash

責められなかった二組の事情

では残る二組はなぜ無傷だったのか。理由は二組で別々だ。

At the Gates は、裏切る前に止まった。『Slaughter of the Soul』を世に出した翌1996年、ギターのアンデルス・ビョーラーが脱退し、バンドはそのまま解散する。最高傑作を残した直後に消えたことで、彼らの音は最も鋭い瞬間のまま標本になった。変質する時間を持たなかったバンドを裏切り者と呼ぶ理屈は立たない。2007年に再結集し、翌年ステージへ戻ってからも、彼らは尖ったメロデスの輪郭を崩さなかった。

その鋭さを一曲で確かめるなら、『Slaughter of the Soul』の口火を切る一撃がいい。

🎬 イントロが鳴った瞬間に走り出す。刻みとメロディが同じ速度で動き、息継ぎなしで駆け抜ける。

🎵 速度と切れ味だけで最後まで押し切る一枚。捨て曲を探す隙間がどこにもない。
『Slaughter Of The Soul』: Amazon

Dark Tranquillity の場合は、止まらずに筋を通した。『The Gallery』で示した叙情と暗さの配合を軸に保ったまま、2024年の『Endtime Signals』まで十三枚を積み上げている。スタンネの声は咆哮と囁きを往復しながら、一度もメインストリームへ媚びなかった。売り上げの爆発は無くても、出自を売らなかったバンドに石を投げる者はいない。

🎵 暗さと叙情が同じ重さで鳴っている。スタンネの咆哮とツインギターの絡みが、このバンドの背骨をここで固めた。
『The Gallery』: Amazon

変節の経済学

ここで「変節の経済学」という言い方をしてみたい。In Flames がやったのは、シーンの信用という通貨を、より広い市場という通貨へ両替する取引だった。両替には手数料がかかる。古参の信頼が目減りした分が、その手数料だ。

取引そのものに善悪は無い。In Flames は知名度と動員という見返りを確かに受け取った。残る二組は両替をしなかったぶん信用を手元に残し、その代わり In Flames ほどの市場規模には届かなかった。三組は同じ地点から出て、別々の通貨を選んだ。誰かが間違えたわけではない。

裏切りという言葉が In Flames に集中したのは、変化の幅が一番大きく、しかも成功が目立ったからでもある。小さく変わったバンドや、変わらないまま売れなかったバンドは、そもそも告発の舞台に上がらない。最も遠くまで動き、最も多くを得た者が、最も激しく裁かれた。

時間が判決を書き換える

判決は、時間とともに揺れている。2023年の『Foregone』で、In Flames は初期メロデスの手触りを意識して呼び戻した。完全な原点回帰ではないにせよ、攻撃性と叙情を取り戻したこの作は、離れていた聴き手からも歓迎の声を集めた。二十年前に裏切りと呼ばれた音を作った同じバンドが、今度は帰還と呼ばれている。

“The music we’re doing is the music that we want to do, so it was never, ‘Oh my God, we’re lost. What do we do?!’ But sure, we are known for melody and aggression — that’s our DNA.”

おれたちがやっているのは、おれたちがやりたい音楽だ。「しまった、迷子になった、どうする?!」なんて瞬間は一度も無かった。とはいえメロディと攻撃性で知られているのは確かで、それがおれたちの DNA なんだよ。

— アンダース・フリーデン(Loudwire・2024年のインタビュー)

帰還と呼ばれても、当人には帰った覚えが無い。両替の勘定を付けていたのは、はじめから聴き手の側だった。

その手応えは、先行曲のひとつを聴けば伝わる。

🎬 刻みの重さは現在の In Flames のもので、そこへ絡むリードは1996年の手つきに近い。両方が一曲に同居している。

バンドは2026年、15作目の録音を終えた。発売日はまだ出ていない。

同じ時間は、止まったはずのバンドも動かした。At the Gates は2026年4月24日、8作目『The Ghost of a Future Dead』を届けている。2014年の『At War with Reality』以来となる、ビョーラーの復帰作でもある。

声を務めたトーマス・リンドベリは2025年9月、2023年末に見つかった癌のため52歳で世を去った。アルバムの題は当初『The Dissonant Void』になるはずで、改題を選んだのはリンドベリ本人だった。彼が病と向き合う最中に残した歌が、この作品に刻まれている。最も早く沈黙した三羽烏の一羽が、最後にもう一度だけ声を残した。

🎵 リンドベリの最後の歌が全編に残っている。喉の奥から絞り出す声は、最後まで鈍っていない。
『The Ghost of a Future Dead』: Amazon
In Flames 裏切り者——silhouette photography of concert
Photo by Sebastian Ervi on Unsplash

裏切り者という札は、最も遠くへ動いた者に貼られやすい。In Flames を責めた声も、責めなかった音も、元をたどれば同じイエテボリのバスから降りてきた仲間うちのものだ。三十年を歩いたいま、三組がどこへ向かったのかを並べ直すと、裏切りも忠義もずいぶん違った表情をしている。あの街で鳴りはじめた音は、形を変えながら、今もどれひとつ止まっていない。

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