5月30日、川崎クラブチッタ。ポイズン・ザ・ウェル(Poison the Well)が鳴らしたのは12曲で、そのうち17年ぶりの新作から選ばれたのは2曲だった。BLOODAXE FESTIVAL 2026 の春エディションに、レジェンドの再来日として立った夜の記録。新譜を抱えて海を渡ったバンドが、フロアに渡したのは1999年から2003年の音だった。
BLOODAXE FESTIVAL 2026——川崎に集まった14組
ブラッドアックス・フェスティバル(BLOODAXE FESTIVAL)は、ロイヤル・トゥ・ザ・グレイブ(LOYAL TO THE GRAVE)のボーカルKOBAが2000年に始めた祭だ。海外バンドの招聘から手をつけ、日本のハードコアを外の回路に繋いできた。春と秋の年2回、会場はどちらも川崎クラブチッタになる。
クラブチッタは1988年開業、2002年にリニューアルしたオールスタンディングの大箱で、キャパは約1,300人。5月30日はOPEN 11:00/START 12:00で、オープニングアクトから数えて14組が回った。海外から5組、国内から9組。この配分が20年以上変わらないまま続いている。
ポイズン・ザ・ウェルが選んだ12曲
ポイズン・ザ・ウェルはマイアミ近郊で90年代後半に始まり、2009年の『The Tropic Rot』を最後に活動を止めた。2015年から散発的に再結成公演を重ね、2026年3月20日、17年ぶりの新作『Peace in Place』をシャープトーン・レコーズ(SharpTone Records)から出している。通算6作目。来日日程は川崎の前日に新宿、翌日に大阪、その後も東京と続く長い列だった。
setlist.fm に残った12曲の内訳を追うと、選曲の重心がどこにあったかが見える。1999年のデビュー作『The Opposite of December… A Season of Separation』から5曲。2003年の『You Come Before You』から3曲。新作からは「Thoroughbreds」と「Wax Mask」の2曲。最後のアルバムだった『The Tropic Rot』からは1曲も鳴らなかった。
私は以前、彼らの遺産を辿った記事で、2000年代メタルコアの設計図を引いたのはこのバンドだと書いた。川崎で鳴ったのは、その設計図そのものだった。新譜の宣伝ではなく、影響を受けた世代が集まる祭で、影響の元になった曲を並べる。選曲の順序がそう言っている。
復帰作について、ボーカルのジェフリー・モレイラ(Jeffrey Moreira)はこう語っている。
“Peace In Place is probably the most pissed record we’ve ever made.”
「『Peace In Place』は、たぶん俺たちが作ってきた中でいちばん怒っているレコードだ」
— ジェフリー・モレイラ(Jeffrey Moreira)/Loudwire(2026年1月13日)
スピードが最後に鳴らしたのは1991年の曲だった
スピードはシドニーの5人組。2024年のデビュー作『ONLY ONE MODE』でARIAチャート1位を獲り、同年のARIA賞ハードロック/ヘヴィメタル部門も受賞した。2025年4月にはオーストラリアのハードコア・バンドとして初めてコーチェラのステージに立っている。曲は短い。煽る前に拳が落ちている。
川崎のセットは「REAL LIFE LOVE」で口火を切り、本編を「THE FIRST TEST」で閉じた。デビュー作から6曲、EP『All My Angels』から3曲、初期の『Gang Called Speed』から3曲。アンコールで鳴ったのは自分たちの曲ではない。ジ・アイスメン(The Icemen)の「The Harsh Truth」——1982年にニューヨークで結成され、CBGBを拠点にしたバンドが1991年のEPに残した一曲だった。現行シーンの頂点にいるバンドが、最後に選んだのは40年前のニューヨークの曲だった。
ボーカルのジェム・シャウ(Jem Siow)が歌から煽りへ切り替わる瞬間、声の質感が変わる。スタジオ盤で整えられた怒気が、ライブでは形を崩す。その振れ幅がこのバンドの正味で、確かめるならデビュー作を通しで浴びるのが早い。
国内の柱——ロイヤル・トゥ・ザ・グレイブ、ナム、ノーシス
ロイヤル・トゥ・ザ・グレイブは1998年から東京で動くメタリック・ハードコアで、この祭の主催そのものでもある。2024年にはトリプルB・レコーズ(Triple B Records)から7年ぶりのEP『Rectitude』を出し、収録曲「Remain Steadfast」にはテラー(TERROR)のスコット・ヴォーゲル(Scott Vogel)がゲストで加わった。海外のレーベルが日本のハードコアを出す。KOBAが2000年から続けてきた回路が、そのまま形になっている。
ナム(NUMB)は1995年結成。ニューヨーク・ハードコアのグルーヴを国内でまだ誰も鳴らしていなかった時期に東京で始め、30年を超えて止まっていない。
ノーシス(KNOSIS)は元クリスタル・レイク(Crystal Lake)のリョウ・キノシタ(Ryo Kinoshita)が立ち上げたプロジェクトで、2025年8月にデビュー作『GENKNOSIS』を出したばかりだった。メタルコアにデスコア、EDM、ラップまでを飲み込む音は、隣に並ぶ古参とまるで手触りが違う。米国からはサンノゼのビッグ・ボーイ(BIG BOY)が初来日を果たしている。ベイエリアの毒気を、初めて川崎の床に落とした一組になった。
次は9月19日、同じ床の上で
春の翌に来るのは秋の本編で、BLOODAXE FESTIVAL 2026は9月19日(土)、川崎クラブチッタで開かれる。ラインナップは7月8日に発表された。米国からペイン・オブ・トゥルース(PAIN OF TRUTH)、ワン・ステップ・クローサー(ONE STEP CLOSER)、アンダイング(UNDYING)ら6組。国内からはナム、ロイヤル・トゥ・ザ・グレイブ、ビュー・フロム・ザ・ソユーズ(VIEW FROM THE SOYUZ)らが並ぶ。
春に立った海外勢は、どちらも自分の最新形を持っていた。その最新形を持った二組が、片方は27年前の曲を、片方は35年前のカバーを最後の一撃に選んだ。祭の通貨になっているのは新譜ではなく、受け渡しの側だと分かる。
9月19日の川崎で、同じ床にまた別の世代が並ぶ。何が鳴るかは当日までわからない。わかっているのは、そこで渡されるものが今回と同じ種類の重さを持つということで、その重さを確かめる方法は一つしかない。

