14年ぶりと告知された夜に、彼らは日本のための特別なセットを1曲も用意しなかった。ENTER SHIKARI 来日2Days の初日、2026年5月28日の渋谷WWW X。setlist.fm に残された17曲は、9日前のメルボルン公演と1曲も違わない。曲順まで同じだった。
空白の14年に、彼らは何度も日本へ来ていた
エンター・シカリ(ENTER SHIKARI)が自分の名前で東京の夜を建てたのは、2012年2月23日の恵比寿LIQUIDROOM以来になる。3rdアルバム『A Flash Flood of Colour』を抱えて来た、あの一夜。招聘元のLive Nation H.I.P.は今回の2Daysを「14年ぶりの単独来日」と告知している。
空白のあいだ、彼らが日本を避けていたわけではない。2023年4月1日にはKNOTFEST JAPANで幕張メッセ9-11ホールに立ち、2025年にはCrossfaith主催の”HYPER PLANET”にも出ている。無かったのはフェスの出演ではなく、自分の名前でチケットを売る夜のほうだった。
会場の渋谷WWW Xは収容約600人。姉妹箱のWWWが400人だから、都内でも小さい部類に入る。本国では2023年にウェンブリー・アリーナをヘッドラインし、2026年秋には25,000人規模のCo-op Liveを含むアリーナ・ツアーが控えている。アリーナを満員にするバンドが、東京では600人の箱に降りてきた。
ENTER SHIKARI 来日2Daysで、実際に鳴った曲
初日は「LOSE YOUR SELF」で幕が開いた。新作の1曲目をそのままオープナーへ置く形は、オーストラリア公演から続いている。デビュー作『Take to the Skies』の「Labyrinth」、「Sorry, You’re Not a Winner」、「Bloodshot」、「Quelle Surprise」と進み、本編の最後が「{ The Dreamer’s Hotel }」。アンコールは「Spaceship Earth (I. Avec Abandon)」から「Juggernauts」へ。全17曲。
5月19日、メルボルンのPier Bandroom。こちらも17曲、同じ曲順、同じアンコール。14年待った東京に出されたショウは、9日前のメルボルンと寸分違わなかった。
激ロックのライヴ・レポート(取材=菅谷透)には、その夜の温度が記録されている。開演前にSHIKARIコールが自然発生している。Rob Rolfe(ドラム)が日本語で「昔の曲は好きですか?」と訊ね、高速ブレイクビーツが流れた瞬間にこの日いちばんの歓声が上がった——「Sorry, You’re Not a Winner」だ。Rory Clewlow(ギター)はギターを弾きながらフロアへ飛び込み、Chris Batten(ベース)は「3年かかったけど、やり遂げた」と新作の制作を振り返っている。
2日目だけ、形が変わった
5月29日は19曲になった。「Labyrinth」が落ち、代わりに3曲が入る。「Zzzonked」(『Common Dreads』2009年)、「Gandhi Mate, Gandhi」(『A Flash Flood of Colour』2012年)、2013年の単発シングル「The Paddington Frisk」。足された3曲は、すべて2009年から2013年のカタログから来ている。
前夜、フロアは「昔の曲は好きですか?」に歓声で答えていた。翌日、古い曲が3つ増えた。因果を証明する材料は無い。順序が、そう並んでいる。
『Lose Your Self』は、一息に飲ませるために落とされた
2026年4月10日、So Recordingsから予告なしに配信された8作目。先行シングルも、ティーザーも、説明も無い。前作『A Kiss for the Whole World』(2023年)で英国アルバムチャート1位を初めて獲ったバンドの、次の一手がこれだった。
“But we’ve never really actioned something like this where people are forced to take it in one mouthful. This way dumps it on people and forces them to absorb it, which is really important.”
「こういうことを実際にやったのは初めてなんだ——ひと口で丸ごと飲み込ませる、というやり方は。このやり方は人にドサッと落として、吸収することを強いる。それがすごく大事なんだよ」
— ルー・レイノルズ(Rou Reynolds) / Kerrang!(2026年4月15日)
タイトル曲は、天文学者カール・セーガン(Carl Sagan)が『Pale Blue Dot』(1994年)に書いた “a mote of dust suspended in a sunbeam” を踏まえている。終盤を占める三部作「Spaceship Earth」の題は、経済学者バーバラ・ウォード(Barbara Ward)が1966年の同名の著書で使った概念から来ている。全12曲、途切れずに続く一つの塊として設計された作品だ。
その塊から、ステージへ抜かれたのは5曲だった。「LOSE YOUR SELF」「The Flick of a Switch I.」「Find Out The Hard Way…」「it’s OK」「Spaceship Earth (I. Avec Abandon)」。9曲目の「Shipwrecked!」は、東京の2日間で一度も鳴っていない。一つの塊として聴けと言って出した作品から、彼らは体が動く5曲を抜いてライブへ持ってきた。
特別扱いをしない、という敬意
14年ぶりの客に「日本限定の特別なセット」を組むこともできた。彼らは組まなかった。世界のどこでもやっているショウを、同じ形のまま、同じ順で東京に置いている。記念日として飾らず、ツアーの一夜として扱う——それが2Daysの初日だった。
2007年、この4人はエレクトロニカとハードコアの境界線を引き直してエレクトロニコアという場所を作った。あの越境から19年、やっていることの芯は動いていない。決まった型を持ってきて、目の前の反応で1回だけ動かす。渋谷の2日目に増えた3曲が、その1回にあたる。
東京で鳴らなかった9曲目が、11月から始まる本国のアリーナ・ツアーで出てくるかは分からない。渋谷に置いていったショウは、世界のどこでもやっているものと同じだった。14年を、そういう形で埋めている。

