1994年10月11日、コーン(KORN)のセルフタイトル盤の針が落ちる瞬間、最初に届くのはギターではない。シンバルが二度静かに刻まれ、ベースが控えめに歩き、低音域でゆっくり下降する金属質のスライドが響く。「Blind」のイントロは50秒近くある。この50秒で、それまでのメタルの語彙が一度切れた。
Blindのイントロ50秒で何が鳴っているか
針が落ちた直後、シンバルが二回静かに刻まれる。フィールディ・アルヴィズ(Reginald “Fieldy” Arvizu)の5弦ベースが控えめに数小節歩き、空間の大きさを測るような前奏になる。やがてギターが入ってくる。フレットを滑らせて引き出される金属質のハーモニクスが、低音を伴ってゆっくり降りてくる。歪みは抑えめなのに低音だけが部屋を占有する。同じフレーズの螺旋がしばらく続き、ある瞬間、すべての楽器が同時に止まる。沈黙が数秒。そこへ、ジョナサン・デイヴィス(Jonathan Davis)の「Are you ready?!」が叩きつけられ、イントロは閉じられる。
そのスライドはマンキーの古いシルヴァートーンだった
あのハーモニクスを鳴らしているのはジェイムズ・マンキー・シェイファー(James “Munky” Shaffer)だ。アルバム本体では7弦のアイバニーズ(Ibanez)UV7BKを使っているのに、「Blind」の頭だけは古いシルヴァートーン(Silvertone)に持ち替えた。シルヴァートーンは1950〜60年代のアメリカで通信販売された安価な量産ギターで、メタルのために設計された楽器ではない。ブルースやガレージ、サーフの音として鳴ってきた歴史を持つ。ニューメタルの夜明けに置かれた最初の音が、メタル外の血を引く古道具から出ている事実は、見逃すと痛い細部だ。マンキーは7弦が伸ばせる極低音をここでは鳴らさず、フレットを滑らせて生じる金属質の倍音だけを選んでいる。エフェクトはビッグマフ(Big Muff)、クライベイビー(Crybaby)、チューブスクリーマー(Tube Screamer)——歪みの量で押すかわりに、質感で押した音作りになっている。
7弦と低域、そして沈黙という楽器
KORN以前、メタルの主戦場は6弦のスタンダードかドロップDだった。マンキーとブライアン・ヘッド・ウェルチ(Brian “Head” Welch)はそこから一段下がった。低音弦を1本足しただけで終わらせていない。楽器のチューニング自体を2半音下げ、A スタンダードまで落としている。出てくる音は、メタリカ(Metallica)やパンテラ(Pantera)が鳴らしてきた低音より、もう一段深い場所にある。胸の中心で受け止める種類の低音ではなく、椅子の底から伝わってくる種類の低さだ。
もう一つ仕掛けが効いている。イントロ50秒のうち、楽器が鳴っていない正味の秒数は決して短くない。沈黙の置き方が、低音の重さと同じだけ仕事をしている。
「Blind」はもともと別バンドの曲だった
「Blind」の骨は、ジョナサンがKORN結成前に在籍していたバンド、セクスアート(Sexart)で書かれていた。作曲したのはドラマーのデニス・シン(Dennis Shinn)で、ギターのライアン・シャック(Ryan Shuck)も原曲の書き手に名を連ねる。デビュー作に収録された時点で二人の名前はクレジットに無く、法的な手続きを経てベスト盤『グレイテスト・ヒッツ Vol.1(Greatest Hits Vol. 1)』以降でようやく記載された。シンは後年のインタビューで「ジョナサンが自分の書いた曲を持って行った」と語っている。KORNがこの曲を1994年のデビュー作のために録り直したとき、原曲には無かった頭の50秒が新しく継ぎ足された。冒頭のシンバルの図形は、プリムス(Primus)「Too Many Puppies」のドラム・イントロを速めて引いたものだ。プロデュースはロス・ロビンソン(Ross Robinson)、マリブのインディゴ・ランチ・スタジオ(Indigo Ranch Studios)で1994年5月から6月にかけて録っている。他人の曲の冒頭に、メタルの外から拾ってきた音だけで自分の名刺を刺し込んだ50秒だ。
“Are you ready?!” の一声でニューメタルが始まった
沈黙の後に置かれたジョナサンの「Are you ready?!」は、当時のメタル・ヴォーカルが持っていた定型のどこにも収まらない声だった。怒鳴っているというより、舞台に上がる直前の自分を奮い立たせる合図に近い。直後、それまで控えていたバンド全体が一斉にかかってくる。数年後に「ニューメタル」と呼ばれることになる音楽の語彙が、この一声を境に解禁された。アルバムの1曲目に「Blind」を据え、ライブのオープナーとして長く使い続けてきた事実は、KORN自身がこの50秒を自分たちの起点と認識し続けてきたことを示している。
“The whole built up is like something is coming to wreck your shit and you can’t do anything about it. Nothing sounded remotely close at that time.”
あの積み上げ方は、何かがこっちを壊しに来ていて、こちらには何もできない、という感じなんだ。当時、あれに近い音はどこにも無かった。
— ResetEra / 「Blind by Korn has one of the best intros of all time.」スレッド
このイントロを聴き直すたびに、メタルの何かが切り替わった音が今もちゃんと残っていることに気づく。1994年に針が落ちた50秒は、いまヘッドフォンで聴いても、同じ場所で同じ重さで止まる。

