TOOL「Lateralus」——フィボナッチ数列で書かれたメタル史上もっとも数学的な曲

TOOL Lateralus ── TOOL「Lateralus」——フィボナッチ数列で書かれたメタル史上もっとも数学的な曲 楽曲解剖
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フィボナッチ数列は、ひまわりの種の並びや巻き貝の螺旋に現れる数学的な構造だ。そして2001年、その数列が1曲のメタルソングに埋め込まれた。トゥール(TOOL)の「Lateralus」だ。「Lateralus」とフィボナッチ数列の関係を知った瞬間、この曲の聴こえ方が根本から変わる。

「Lateralus」は歌詞の音節数がフィボナッチ数列(1・1・2・3・5・8・13)の通りに並び、サビの拍子も9/8・8/8・7/8と動く。並べた987は、数列の16番目の数にあたる。数学が先にあったのではなく、バンドが組んだリフの中に数列があとから見つかった——それが本当の順序だ。

TOOLとは何者か——1990年、ロサンゼルスの実験

Lateralus フィボナッチ——暗闇に浮かぶ幾何学的な螺旋の抽象アート
Photo by Steve A Johnson on Unsplash

TOOLは1990年、カリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたプログレッシブメタルバンドだ。結成の核となったのは、ボーカルのメイナード・ジェームス・キーナン(Maynard James Keenan)とギタリストのアダム・ジョーンズ(Adam Jones)。2人は1989年に共通の友人を通じて出会い、バンドを動かし始めた。

ドラマーのダニー・ケアリー(Danny Carey)は、キーナンの住むアパートの真上に住んでいた。ジョーンズの旧友トム・モレロを通じて紹介され、セッションに加わった。ベースは当初ポール・ダムール(Paul D’Amour)が担当した。しかし1995年にジャスティン・チャンセラー(Justin Chancellor)が後を継ぎ、現在の4人体制が完成した。

4人が選んだ音楽のジャンルには、最初から明確な輪郭がなかった。ヘヴィネスとプログレッシブな構成と詩的な歌詞が混在した音楽は、90年代のオルタナティブロックの文脈でも、メタルの文脈でも、きれいには収まらなかった。しかしその「どこにも属さなさ」こそが、TOOLをTOOLたらしめた。デビューアルバム『Undertow』(1993年)でシーンに現れ、続く『Ænima』(1996年)でプラチナムを達成した。

フィボナッチ数列が「Lateralus」に埋め込まれている

アルバム『Lateralus』は2001年5月15日にVolcano Entertainmentからリリースされた。3枚目のスタジオアルバムだ。収録曲「Lateralus」は、そのアルバムでもっとも分析されてきた楽曲だ。

まず、フィボナッチ数列を確認しておきたい。1から始まり、直前の2つの数の和が次の数になる数列だ。1、1、2、3、5、8、13、21、34、55……と無限に続く。自然界に広く現れる構造で、ひまわりの種の配列や貝殻の螺旋がその代表例だ。各数の比率は、項を進めるほど黄金比(約1.618)へ収束していく。

音節が数字の列を描く

「Lateralus」のAメロでは、キーナンが歌う音節の数がフィボナッチ数列を正確に辿る

「Black」が1音節。「then」が1音節。「white are」が2音節。「all I see」が3音節。「in my infancy」が5音節。「red and yellow then came to be」が8音節。そして「reaching out to me」が5音節、「lets me see」が3音節と、数が下りはじめる。1→1→2→3→5→8→5→3——数列がそのまま螺旋を描いている。

その後のフレーズでは、数が頂点へ向けて再び増えていく。「As below so above and beyond I imagine」は13音節だ。「drawn outside the lines of reason」が8音節、「Push the envelope」が5音節、「Watch it bend」が3音節と降りてくる。音節は螺旋を描いて頂点まで上がり、来た道をそのまま下ってくる。

この並びは偶然ではない。キーナンは数列に合わせて言葉を刻んでいる。歌詞そのものが「枠を押し広げろ」「螺旋を描いて進み続けろ」というメッセージを抱えている。外へ広がり続けるフィボナッチ螺旋の性質と、その言葉の意味が、寸分ずれずに重なる。

では、その数列はどこから来たのか。答えはキーナンの手元にはない。ベースが弾いたリフの中にある。

🎬 アルバム『Lateralus』(2001年)収録。TOOL公式音源。

拍子記号にも潜む数学——9/8・8/8・7/8の意味

Lateralus フィボナッチ——暗い背景に浮かぶ光の螺旋
Photo by Declan Sun on Unsplash

仕掛けは歌詞だけに留まらない。サビの拍子記号が9/8、8/8、7/8と変化する。並べると「9・8・7」だ。ケアリーはインタビューでこう語っている。

「もともとこの曲は『9-8-7』というタイトルにしようとしていた。拍子記号からとったタイトルだ。そうしたら、987がフィボナッチ数列の第16番目の数だとわかった。それはかなりクールなことだった」

ここの順序を取り違えたくない。数列が先にあって、そこへ音を流し込んだのではない。9・8・7という拍子はチャンセラーの手から出たリフで、987がフィボナッチ数列の16番目だと気づいたのは後のことだ。ケアリーの友人がその一致を指摘し、バンドに説明した。

リフそのものの成り立ちを、ベースのジャスティン・チャンセラーが20周年のインタビューで明かしている。

“The original riff was a bar of nine, a bar of eight and a bar of seven, and the idea was that it feels like it’s folding in on itself. But it basically wrote itself.”

最初のリフは9拍の小節、8拍の小節、7拍の小節でできていた。曲が自分の内側へ折りたたまれていく——狙ったのはその感触だ。だが曲は、ほとんど勝手に書き上がっていったようなものだった。

— Justin Chancellor(Kerrang! / 2021年)

「彼が僕たち全員に説明しはじめた。そこから僕らはそのアイデアを追いかけた。数列のほうが姿を現し、僕らはそれについていった」。チャンセラーはそう続ける。仕掛けを設計してから鳴らしたのではなく、鳴らしたものの中に潜んでいた仕掛けを見つけ、後から追いかけた。キーナンが数列に乗せて歌いはじめたのは、その後だ。

同じインタビューで、チャンセラーは数学的な厳密さにも釘を刺している。「フィボナッチ数列は(この曲の中で)数学的に正確なわけじゃない。要素が入っているだけだ」。曲の全長は9分24秒。その9分24秒を数列が支配しているわけではなく、数列は骨組みの一部として通っている。

🎵 「Lateralus」を含む、TOOLの2001年発表の3枚目のアルバム。Volcano Entertainment。
『Lateralus』: Amazon

なぜ「Lateralus」は25年後も語られるのか

「Lateralus」がリリースされてから25年が経った。それでも、この曲は繰り返し取り上げられ続けている。ファンが分析し、音楽メディアが特集を組み、数学的観点からの考察が各地で共有される。

理由の一つは、知れば知るほど深くなる構造にある。フィボナッチ数列を知らなくても「Lateralus」は聴ける。9分24秒の起伏は聴き手を揺さぶる。だが知ってしまうと、もう以前には戻れない。音節を数えながら聴き、拍子の変化を追う。そのたびに新しい発見がある。

もう一つの理由は、構造と言葉がぴたりと噛み合っていることだ。「Lateralus」はラテン語にそのまま存在する単語ではない。「側面の」を意味する lateralis を捻った造語だ。螺旋が外へ向かうように、歌詞も意識が境界の外へ広がるよう促す。音の形、言葉の意味、そこに通る数——三つが一点で重なっている。

作った本人は、この仕掛けを買っていない

当のキーナンは、この仕掛けを高く評価していない。2017年、ポッドキャスト「The Joe Rogan Experience」で本人がこぼしている。

“I feel like I kind of pulled a very pedestrian, sophomoric move by including those numbers in there because in general music is the Phi ratio. […] I almost feel like it was kind of a dick joke, in a way. I could do better.”

あの曲に数字を仕込んだのは、かなり凡庸で青くさい手だったと思う。音楽というのはそもそも黄金比でできているんだから。(中略)あれは一種の下ネタみたいなものだった気がする。もっとうまくやれるはずだ。

— Maynard James Keenan(The Joe Rogan Experience / 2017年)

作った本人が「青くさい」と切り捨てた仕掛けが、25年にわたって聴き手を掴んで離さない。数列がこの曲の値打ちを保証しているのではない。保証しているのは、9・8・7が内側へ折りたたまれていくあの感触だ。

数式に閉じ込められた曲だと身構えて聴くと、この曲は逃げていく。鳴っているのは、折りたたまれ続けるリフと、そこから外へ出ようとする声のせめぎ合いだ。

「Lateralus」は数学で書かれた曲ではない。手が組んだリフの中に数学が見つかり、バンドが後からそれを追いかけた曲だ。順序が逆だと知っても、この曲は一つも小さくならない。

音節をいちいち数え上げる聴き方をしなくても、フィボナッチが描く螺旋の感触を頭の片隅に置くだけで、これまで通り過ぎていた起伏が急に意味を持って立ち上がってくる。数学の話だと身構えていたものが、むしろ深く鳴っている音楽だったと分かる。「Lateralus」は、その手応えを何度でも返してくる。

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