2025 年 5 月、デス・エンジェル(Death Angel)が 6 年ぶりの新曲「Wrath (Bring Fire)」を放った。前作『Humanicide』(2019)は表題曲がグラミーにノミネートされ、バンドが初めて賞レースの土俵に立った。その栄誉の直後に世界が止まり、ベイエリア・スラッシュの古豪も足を止めていた。沈黙の先で鳴ったこの一曲を、聴いたまま書く。
「Wrath (Bring Fire)」の最初の一撃
鳴り出して数秒、刻みの速いリフが鼻先に火を突きつけてくる。冷たく乾いた歪みで、湿り気のないベイエリア・スラッシュの手触りだ。テンポを上げて押し切るだけの曲ではない。低く重い質量を引きずる場面と、頭を振らせる疾走が、同じ一曲のなかで何度も入れ替わる。ブレイクで一瞬すべてが止まり、息を詰めさせてから次の刻みへ雪崩れ込む。速さよりも、速さと重さの落差で殴ってくる。
ミックスは余白を削ってある。ギター、ベース、ドラムが団子にならず、刻みの粒がそれぞれ立ったまま耳に届く。土台のリズムは過剰に飾らず、刻みの速さを支えることに徹している。音圧で塗り潰す現代的なマスタリングのなかで、各パートの分離がここまで保たれているのは、2009 年から動いていない 5 人が積み上げた地力の出方だろう。
オセグエダの声が運ぶ怒り
マーク・オセグエダの声が、これまでより一段と荒い。叫びの先端がひび割れ、喉を絞る瞬間の軋みまで録れている。高音に張り上げても言葉が潰れず、子音の角が立ったまま飛んでくる。バンド全体で押し出すコーラスでは、声と楽器が同時に前へ出て、音の密度が一気に増す。整えて聴かせるのではなく、感情の出口をふさがずに通した歌い方だ。怒りという主題が、声色そのものに乗っている。
歌詞の発想源は意外な場所にある。オセグエダはパンデミックで足止めを食らった時期に、それまで縁のなかった中世ファンタジーの映像作品を観るようになった。剣と炎と滅びの世界観が、外に出られない現実の閉塞と噛み合ったのだろう。「火を放て」という言葉が、終末めいた光景を呼び込む。
6 年の沈黙は空白ではなかった
『Humanicide』の表題曲がグラミーの最優秀メタル・パフォーマンス部門に挙がったのは、結成から長い時間をかけて掴んだ評価だった。結成から数えれば、評価が届くまでに費やした年月のほうがずっと長い。その年の賞そのものはトゥール(Tool)の手に渡ったが、ベイエリア・スラッシュの古豪が初めて土俵に上がった意味は小さくない。栄誉の直後に活動が止まったのは、本人たちの選択というより時代の事情が大きい。
歌詞が 2021 年 1 月の時点で書かれていた事実は、沈黙が止まったままの 6 年ではなかったことを示している。出せなかった年月のあいだ、火種は手元で温められていた。賞レースで一度認められたバンドが、評価を守りにいくのではなく、より荒い音で戻ってきた。きれいに磨いた続編ではなく、火種をそのまま投げ返すような選択だ。
ソロが一瞬だけ開ける視界
中盤で噛みつくように入るギターソロが、この曲のもう一つの山になっている。速弾きを誇示する設計ではなく、刻みの圧から一瞬だけ視界をこじ開けて、ふたたび闇へ引き戻す役を負う。ロブ・キャヴェスタニーの手癖がそのまま出た、歌うフレーズと攻撃的なピッキングの折衷点。ソロを抜けて戻るリフが入りより重く聴こえるのは、たぶん錯覚ではない。
公式の映像は、シングル公開から半年ほど遅れて出た。夏の欧州ツアーで回したカメラの素材で組まれていて、荒い照明と煙のなかで場面が切り替わる。音だけで受けた終末の手触りが、画を通してもう一度像を結ぶ。ステージの熱と、歌詞が描く滅びの世界がまっすぐ重なる。
「型どおり」という海外の声
手放しの歓迎ばかりではなかった。海外のスラッシュ好きが集まるスレッドには、こんな留保が並んだ。
“you could add this number to any one of their last 4 albums”
この曲を直近の 4 枚のどれに入れても、そのアルバムの一部だと思うだろう
— Reddit / r/thrashmetal
言い当てている。ここに新機軸はない。刻みの組み方も曲の畳み方も、近作の延長線上にある。だがこの一曲は、新しさを提示する役を引き受けていない。6 年ぶりに口を開くバンドが、最初に何を鳴らすか。その一点だけを担って置かれた音だ。型どおりに聴こえるのは、彼らが自分の型を捨てなかったからで、捨てなかった理由は火がまだ残っていたからだろう。
火は次に何を焼くのか
「Wrath (Bring Fire)」は夏の欧州ツアー「Summer of Wrath」の号砲として放たれ、同じ年の 11 月には「Cult of the Used」が続いた。アルバムは 2026 年の夏を迎えてもまだ出ていない。オセグエダは新作の時期を「最速で 2026 年の終わり」と語り、キャヴェスタニーは 2026 年中のリリースを「希望的観測かもしれない」と言う。この一曲だけで全体像を語るのは早い。それでも、6 年の沈黙を破る最初の音にこれを選んだ判断には、はっきりした意思が透ける。賞で認められた重さを、次は速さと怒りで上書きしにきた。
古いファンが安心する曲ではないかもしれない。スラッシュという様式が今も身体に効くのか——半信半疑の耳を、この音は無理やりこじ開ける。鳴っているのは懐古ではなく、まだ燃料を残した火だ。

