GHOST『Skeletá』——「ポップ化」と切り捨てる前に聴き直すべき5曲

GHOST『Skeletá』——「ポップ化」と切り捨てる前に聴き直すべき5曲 アルバムレビュー
この記事は約7分で読めます。

「また丸くなった」——ゴースト(Ghost)が6枚目のアルバム『Skeletá』を出した2025年4月、そんな声がすぐに広がった。だがその作品はBillboard 200に初登場1位で入り、初週だけで86,000ユニットを動かしている。うち77,000枚は純粋なアルバム販売だ。

批評筋の反応も鈍くなかった。Metal Hammerは2025年のアルバム・オブ・ザ・イヤーに本作を選び、批評サイトMetacriticのスコアは78に届いている。「ポップすぎる」という不満が消えたわけではない。それでもチャートと批評を同時に制した事実は残る。この矛盾を聴かずに放っておくのはもったいない。

『Skeletá』を「ポップ化」の一語で片づけると、その奥にある喪失と執着のテーマを聴き逃す。チャートと批評を同時に制した理由は、間口の広さの内側にある。

新体制で挑んだ6枚目の世界観

薄暗い大聖堂のステンドグラス
Photo by Adrien Olichon on Unsplash

ゴーストはスウェーデン出身のロックバンドだ。サタニックな様式美とポップな旋律を掛け合わせる独自のサウンドで、広く知られてきた。フロントマンは「パパ」と呼ばれる匿名のキャラクターで、作品ごとに衣装と設定が変わる。本作でその役を引き受けたのが、パパ V ペルペトゥア(Papa V Perpetua)だ。

前作『Impera』(2022年)はグラムロックやアリーナポップへ踏み込んだ作品だった。今作『Skeletá』が軸に据えるのは、よりオーガニックなアレンジだ。室内楽的な質感も随所に顔を出し、歌詞は孤独・喪失・執着という内省的なテーマへ沈んでいく。「ポップ化」という言葉だけでは片付けられない複雑さがある。

聴き直すべき5曲

暗い廊下とベンチ
Photo by Peter Herrmann on Unsplash

① Satanized——リードシングルが示す新体制の「核」

2025年3月5日に先行リリースされたリードシングルだ。ミッドテンポのロックンロール・ストンパー、という評が近い。ストレートなエネルギーを押し出しながら、サビの旋律には独特の粘りがある。新フロントマンの存在感を、いちばん端的に伝えてくる1曲でもある。

ミュージックビデオを監督したのはアミール・シャムディン(Amir Chamdin)、画面の中心に立つのはスウェーデン人俳優のデヴィッド・デンシック(David Dencik)だ。不穏さと滑稽さが同じ画面に共存する、Ghostらしい美学が貫かれている。

ところが歌の中身は、悪魔憑きの話ではない。「これは愛についての歌だ」とトビアス・フォージ(Tobias Forge)は明かしている。悪魔に取り憑かれるのではなく、恋に落ちた人間が傍目には取り憑かれたように見える——その状態を歌ったのだと。悪魔的な意匠を被せておいて、剥がすと色恋が出てくる。単なるショックコンテンツとは、ここではっきり一線を画している。

🎬 ミッドテンポのストンパーで、サビの旋律には独特の粘りがある。不穏さと滑稽さが同居する映像もろとも、新フロントマンの存在感を端的に伝えてくる。

② Lachryma——ドゥームとAORの奇妙な共存

4月11日に公開された2枚目のシングルだ。「ラクリマ(涙)」というラテン語のタイトルが示すとおり、重さと美しさが一曲のなかで同居する。評論家たちはこれを「ドゥームを引きずるリフに、輝かしいAORのサウンドが重なる」と評した。

重苦しいギターリフが地を這う。そのコーラスで、突然視界が開けるような明るさが差し込んでくる。この対比こそがGhostの巧みさの核心だ。パパ V ペルペトゥアのボーカルは、ここで特に説得力を増す。新フロントマンとしての実力が、いちばん見えやすい場面でもある。

🎬 地を這う重いリフのコーラスで、突然視界が開けるような明るさが差し込む。ドゥームと輝かしいAORが一曲に同居する対比が、パパVの説得力をいちばん見えやすくする。

③ De Profundis Borealis——静寂から始まる深淵

ピアノの静かなイントロから始まる曲だ。そのまま進むうち、ヘビーなリフがゆっくり押し寄せてくる。アルバムのなかで最も「Ghostらしくない」と感じさせる瞬間を、この曲は抱え込んでいる。ボーカルは低めのレジスターで歌われ、暗く沈んだ手触りを残す。

題の出どころは、オスカー・ワイルドが獄中で綴った長い手紙『De Profundis(獄中記)』だ。ラテン語で「深淵より」を意味し、そこへ「北方の」を足したのがこの曲名になる。フォージはこの題について、ブラックメタルの聴き手ほど反応する響きだと語っている。凝った題を掲げていても、リフの重さは本物だ。「ポップ」とは対極にある、最も聴き手を試す1曲かもしれない。

④ Cenotaph——不在の人への祝祭的な讃歌

「ケノタフ(Cenotaph)」とは、遺骨のない慰霊碑を指す。もうそこにいない誰かの存在を祝うという、矛盾した感情をそのまま扱った楽曲だ。

楽曲自体は、本作で最もエネルギッシュなロッカーの一つだ。その明るさと歌詞のテーマとのギャップが、独特の緊張感を生む。祝祭的なサウンドの裏側に、拭えない喪失感が潜んでいる。Ghostが最も得意とする「糖衣に包んだ苦味」の典型例だ。ヘビーさを求めるリスナーほど表面的な明るさに反応しやすいのに、その明るさが逆説的にテーマの重さを際立たせている。

⑤ Missilia Amori——キッス直系の爆発力

アルバムのピークとも言えるトラックだ。「愛のミサイル(Missiles of Love)」が憎しみへと姿を変える、そのアイロニーを扱っている。各所でキッス(KISSスタイルのストンパーと評され、そのグルーヴは中毒性が高い。

一部の批評家は、これを「diabolic highlight(悪魔的なハイライト)」と表現した。聴けばそれも頷ける。シンプルな構造のなかに、Ghostならではの「おかしみと真剣さが混在する世界観」が凝縮されている。メタルというより、ロック全体の文脈で捉えたときに、この曲の完成度はいっそう鮮明に見えてくる。

「ポップ化」という批判を超えて

ゴーストの音楽は、いつも「メタルか、そうでないか」という問いを突きつけてくる。その問いを立てること自体が、すでにバンドの狙いに乗せられている気もするのだが。

『Skeletá』が万人向けの入り口を広げた作品なのは確かだ。その入り口の奥で、「喪失」「孤独」「執着」という重いテーマを10曲かけて掘り下げてもいる。チャート1位を獲り、批評家に評価され、それでいてファンの間で議論を巻き起こす——そんなアルバムは、そう多くない。賛否そのものが、作品の強度を映している。

海の向こうの落胆は、日本のそれとよく似た形をしている。バンドのファンが集まる掲示板には、こんな声が残っている。

“It feels like the band has shifted from being a promising metal act in the vein of Mercyful Fate to a pop rock group aimed at teenagers.”

マーシフル・フェイトの系譜を継ぐ有望なメタル・バンドから、ティーンエイジャー向けのポップ・ロック・グループへ移ってしまった。そんなふうに感じる。

— Reddit / r/Ghostbc

その冷笑へ真っ向から言い返した批評家がいる。メタル専門メディアのブラバーマウス(Blabbermouth)のドム・ローソン(Dom Lawson)だ。

“Skeletá is so aggressively entertaining and full of massive tunes that the cries of perpetual cynics are unlikely to make one single, shitty morsel of difference to its inevitable impact.”

『Skeletá』はあまりに痛快で、耳に残る大曲ぞろいだ。永遠に冷笑をやめない者たちがどれだけ嘆こうと、この避けがたい衝撃にはこれっぽっちの差も生みはしない。

— Dom Lawson / Blabbermouth

間口が広いことと中身が薄いことは、本来まったく別の話だ。入り口がポップでも、その奥で語られるものまで軽いとは限らない。『Skeletá』は聴きやすい旋律の内側に重い感情を畳み込み、そうすることでより多くの耳へその重さを届けようとしている。「丸くなった」という第一印象は、作品の半分しか説明できていない。残りの半分は、繰り返し聴いて初めて輪郭を現す。

「ポップ化」の是非は、前作『Impera』と並べて聴き直したときに、ようやく自分のなかで像を結ぶ。

「ポップすぎる」という感想が出るのは、それだけ間口が広がったということでもある。その先に何があるかを確かめてから判断しても、決して遅くはないはずだ。

アルバムを通して聴く

🎵 Loma Vista Recordings / 2025年4月25日リリース
『Skeletá』: Amazon
WANDERLOUD
Amazonのアソシエイトとして、Wanderloud は適格販売により収入を得ています。( PR はアフィリエイトリンク )
タイトルとURLをコピーしました