ドリーム・シアター(Dream Theater)が新作をリリースした。2025年2月7日のことだ。16枚目のスタジオアルバム——タイトルは『Parasomnia』。マイク・ポートノイ(Mike Portnoy)が16年ぶりに、このバンドのアルバムでドラムを叩いた。それだけでも十分な事件だった。しかも、テーマは睡眠障害だ。夢遊病、金縛り、夜驚症——人が眠りの中で経験する異常な体験を、音楽で描こうとした。全8曲・71分。この重量感は、並大抵のバンドには出せない。
マイク・ポートノイの帰還——16年の空白が生んだ化学反応
脱退から復帰まで——2010年から2023年の経緯
ポートノイがドリーム・シアターを去ったのは2010年9月のことだ。最後に参加したアルバムは2009年の『Black Clouds & Silver Linings』。脱退の背景には、個人的な疲弊とバンドの方向性をめぐる食い違いがあった。後任にはマイク・マンジーニ(Mike Mangini)が就く。その体制が13年続いた末の2023年10月、バンドはマンジーニの脱退とポートノイの復帰を同時に発表した。彼のドラムがスタジオ作で鳴るのは、結局2009年以来——16年ぶりになる。
発表を受けたファンの反応は、驚きよりも安堵に近いものだった。長年の不在が終わる。その事実が、まず全てに先行した。
ドラムが語る、取り戻した「ポートノイ印」の質感
この復帰は単なるノスタルジーで終わっていない。『Parasomnia』のドラムを聴けば、それはすぐにわかる。タイト過ぎず、しかしグルーヴは鉄板のように安定している。バッキングボーカルも聴き応えがあって、ジョン・ペトルーシ(John Petrucci)とのユニゾンが戻ってきた。往年のドリーム・シアターの空気感が、そこで一気に立ち上がる。ファンが「あの頃に戻ってきた」と口にしたのも、聴けば腑に落ちる。
睡眠の病をコンセプトに変える——Parasomniaが描く世界
パラソムニアというテーマの選択
パラソムニアは、医学用語で「睡眠時随伴症」を指す。夢遊病、金縛り、夜驚症——眠りの中で人が経験する異常な体験の総称だ。バンドはこれを単なる「怖いテーマ」として消費していない。意識と無意識の境界を音楽で描く器として選んでいる。現実と幻想が混じり合う、その地点がテーマだ。アルバム全体に通った深さは、ここから来ている。
全8曲・71分の構成——旅の地図
アルバムは8曲構成だ。1曲目はインストルメンタル「In the Arms of Morpheus」で、静かに幕を開ける。続く「Night Terror」が本作の顔となる楽曲だ。中盤に並ぶ5曲——「A Broken Man」から「Bend the Clock」まで——は、それぞれが独立した睡眠の断章として機能する。1分半の小品「Are We Dreaming?」が、その連なりに息継ぎを入れる。そして大曲「The Shadow Man Incident」で幕を閉じる。19分32秒の巨大なエピックだ。8曲で71分——この密度はドリーム・シアターならではだ。
楽曲を聴く——Parasomniaのハイライト3曲
「In the Arms of Morpheus」——闇の序章
1曲目は歌のないインストルメンタルだ。モーフィアスはギリシャ神話の夢の神を指す。「夢の神の腕の中へ」というタイトルどおり、アルバムはそこから始まる。暗く静かなトーンが漂い、この先に何が待つかを匂わせる。ソロの応酬ではなく、「空気」を作るための曲だ。この静が置かれているから、次の「Night Terror」へ移った瞬間にコントラストが鮮明に立つ。
「Night Terror」——グラミーノミネートが示す必然
2曲目で、早くも本作の核に触れる。グラミー賞「Best Metal Performance」にノミネートされた一曲だ。受賞そのものは逃したが、この曲が届いた距離はその事実に残っている。尺は9分55秒。長さを感じさせないまま展開が動き続ける。ジョーダン・ルーデス(Jordan Rudess)のキーボードが耳を引き、ペトルーシのギターと絡んで複雑な美しさをつくる。その下でポートノイのドラムが土台を一段も緩めない。先行公開から1週間足らずで、YouTubeの再生回数は200万回に迫った。
このMV公開時、ファンからはこんな声が届いた。
“Seeing them all together again just feels right and sounds right. Like I just sat back in a comfortable chair.”
「みんなが揃ったのを見て、聴いて——ただ「正しい」と感じた。心地よい椅子に静かに腰を下ろしたような感覚だった」
— YouTube / Loudwire 掲載ファンコメント(2024年10月)
「The Shadow Man Incident」——19分32秒という武器
ラストを飾るのは、19分32秒に及ぶ大曲だ。プログレッシブメタルに長い曲は珍しくない。バンドはこの尺を、物語を語るための土台として使っている。シャドウマンは金縛りの発作のさなかに見えると言われる黒い人影の呼び名で、アルバムの主題がそのまま曲の中心に立つ。ポートノイによれば、ここで鳴るリフにはカナダのロックバンド、ラッシュ(Rush)の『Hemispheres』『Permanent Waves』の匂いが差すという。プログレ史そのものを愛してきた耳には、刺さる場面が随所に待っている。長さが弱点ではなく武器に転じている、稀な一曲だ。
ドリーム・シアターが2025年に鳴らした答え
「保守的」ではなく「確信」——批評と向き合う
『Parasomnia』への評価は、批評家の間で割れた。一部には「保守的すぎる」「革新がなかった」という声もある。それは聴く側の立ち位置の問題だと思う。ドリーム・シアターは聴き手を突き放してはいない。「自分たちが何者であるか」を、一片の迷いもなく鳴らしている。変化を求める耳には物足りなく映るのかもしれない。このバンドらしさを正確に鳴らし切ること——それがこの16枚目に課された仕事だったのではないか。
5人が揃った事実——その意味
本作の最大の意義は「この5人の再結集」にある。技術や曲の出来を超えたところの話だ。ジェイムズ・ラブリエ(James LaBrie)の声、ジョン・マイアング(John Myung)のベース——この5人が揃って録音した作品は、2009年以来これが最初になる。2025年9月に始まったツアーでは、本作を全曲通しで鳴らす構成が組まれた。
眠りの病をコンセプトに変える。その奇妙な選択は、振り返れば完璧に機能していた。

