オリジナルを心底愛しているからこそ、優れたカバーの凄みがわかる。原曲の輪郭はちゃんと残っているのに、鳴っている感情はまるで別物だ——その距離こそがメタル・カバーの肝で、重さや速さよりも解釈の鋭さがものを言う。ここで挙げる7曲は、いずれも「あの曲がこうなるのか」と声が漏れるほど、原曲を超えたと語り継がれてきた。
- メタル・カバーが原曲を超えるとき
- DISTURBED「The Sound of Silence」(2015)
- METALLICA「Whiskey in the Jar」(1998)
- TYPE O NEGATIVE「Summer Breeze」(1993)
- FEAR FACTORY「Cars」(1998)
- MARILYN MANSON「Sweet Dreams (Are Made of This)」(1995)
- JUDAS PRIEST「The Green Manalishi (With the Two Prong Crown)」(1978)
- FIVE FINGER DEATH PUNCH「Bad Company」(2009)
メタル・カバーが原曲を超えるとき
カバーが原曲を超えるのに、「ヘヴィにする」だけでは何も起きない。原曲が抱え込んでいた感情や世界観を、メタルの語彙で読み直せたときに初めて景色が変わる。だから今回は、原曲を踏みつけにせず可能性のほうを押し広げた録音だけを選んでいる。優れたカバーは原曲を消さず、隣に立って共存するものだ。
DISTURBED「The Sound of Silence」(2015)
1曲目はディスターブド(DISTURBED)。デイヴィッド・ドレイマンが、サイモン&ガーファンクルの名曲に新しい血を通わせた録音だ。1964年の原曲は二本のギターと澄んだハーモニーだけで完結していて、それ以上足す余地などないように聴こえる。ところがドレイマンのバリトンが入ると、同じメロディの奥に怒りと底の深さが現れ、孤独のスケールが一気に膨れ上がる。背後で動くオーケストラの弦は飾りではなく、原曲の輪郭をかえって生々しく浮かび上がらせている。
アルバム『Immortalized』(2015年)に収まったこのカバーは、MVの再生数が10億回を突破した。ビルボードのハード・ロック・デジタル・ソングスでは1位を獲っている。2016年3月、テレビ番組「Conan」での演奏を観た原曲の作者ポール・サイモンが、ドレイマンへ直接メールを送った。ドレイマンはその画面写真をバンドの公式ページに公開している。
“Really powerful performance on Conan the other day. First time I’d seen you do it live. Nice. Thanks.”
先日の Conan での演奏、実に力強かった。ライヴでやるのを観たのは初めてだ。よかったよ。ありがとう。
— ポール・サイモン(DISTURBED 公式Facebook で公開されたメール/Loudwire)
原曲を超えたカバーの話になると、メタルを聴く人間もそうでない人間も、この曲の名前を真っ先に挙げる。
METALLICA「Whiskey in the Jar」(1998)
2曲目はメタリカ(METALLICA)。「Whiskey in the Jar」はもともとアイルランドに伝わる民謡で、メタリカが直に下敷きにしたのはシン・リジィ(Thin Lizzy)の1972年版だ。アルバム『Garage Inc.』(1998年)に収録されたこのテイクは、原曲が持つカントリー調の陽気さを捨てずに、ダンサブルなグルーヴごと金属的なリフで太らせている。
その上をカーク・ハメットの流れるようなリードが滑り、ジェームス・ヘットフィールドの声が酒場の語り部の役回りをそのまま引き継ぐ。この録音は2000年の第42回グラミー賞でベスト・ハード・ロック・パフォーマンスを獲った。民謡としての骨格は、金属の器に移し替えてもびくともしない。ライヴでも外せない一曲になった。
TYPE O NEGATIVE「Summer Breeze」(1993)
3曲目はタイプ・オー・ネガティヴ(TYPE O NEGATIVE)。原曲はシールズ&クロフツ(Seals & Crofts)が1972年に放った夏の名曲で、それをバンドは丸ごとゴシック・ドゥームへ沈めてしまった。アルバム『Bloody Kisses』(1993年)に入ったこのカバーでは、ピーター・スティールの深いバスバリトンが、原曲の牧歌的な情景を手を引いて別の世界へ連れていく。
ジャスミンの匂う夏の夕暮れ——その情景が、スティールの声に乗ったとたん夜の闇へ落ちていく。メロディ自体は原曲をほぼそのまま使っているからこそ、原曲を知っている耳ほど解釈の落差に驚かされる。速さを足さず、テンポを落としきったことが武器になっていて、重いリフが夏の光をゆっくり闇へ反転させていく。原曲の輪郭が見えるぶん、その反転はいっそう静かに効く。
この録音には一悶着あった。スティールは当初、自作の別歌詞を乗せて「Summer Girl」という曲名で録っている。原曲を書いたシールズ&クロフツ側がその歌詞を不快として認めず、バンドはヴォーカルを録り直し、原曲の歌詞とタイトルのまま世に出すことになった。歌詞を元へ戻された録音のほうが、結果として原曲の情景を遠くまで運んでしまった。
FEAR FACTORY「Cars」(1998)
4曲目はフィアー・ファクトリー(FEAR FACTORY)。原曲はゲイリー・ニューマン(Gary Numan)が1979年に放ったニュー・ウェイヴのクラシックで、バンドはそれをインダストリアル・メタルへ組み直した。アルバム『Obsolete』(1998年)のボーナス曲という扱いながら、原曲が抱えていた機械的な冷たさと疎外感を、バートン・C・ベルの声と精密な刻みリフでいっそう大きく増幅させている。
この録音には原曲を書いたニューマン本人がヴォーカルで加わっている。1996年ごろから欧州公演のアンコールで「Cars」を鳴らしていたのがニューマン側の耳に入り、マネージャーを通じて本人がヴァンクーヴァーのスタジオへ飛んだ。ベルの声と原作者の声が同じトラックで重なる——カバーというより、書いた本人を巻き込んだ再解釈だ。
皮肉なのは、これだけ冷たい音なのにカバー自体はやたらキャッチーな点だろう。カレッジ・ラジオが拾い、そこから商業ロック・ラジオへ流れ、半年ほど回り続けた。『Obsolete』はバンド最大のセールスとなり、ゴールドを獲る。ロンドンのブリクストンでの公演では、ニューマン本人がステージに上がっている。
MARILYN MANSON「Sweet Dreams (Are Made of This)」(1995)
5曲目はマリリン・マンソン(MARILYN MANSON)。ユーリズミクス(Eurythmics)が1983年に作った原曲を、マンソンは悪夢の姿で起こし直した。インダストリアル・グランジへの大胆な置き換えだ。EP『Smells Like Children』(1995年)に収められたこのカバーは、原曲のシンセポップが持っていたクールさを根こそぎ解体し、歪んだギターと不穏なMVでまるで違う温度を作り出した。
当時のレーベル、インタースコープはこの曲のシングル化に乗り気ではなかった。押し切ったのはマンソン自身だ——「うちのバンドを好きじゃない人間まで気に入る曲になる」と読んでいた、と後年の自伝で明かしている。MVはMTVの定番となり、バンドを一気に主流へ押し上げた。2010年にはビルボードがこの映像を「最も怖いミュージックビデオ」の1位に選び、マイケル・ジャクソンの「Thriller」を退けている。
JUDAS PRIEST「The Green Manalishi (With the Two Prong Crown)」(1978)
6曲目はジューダス・プリースト(JUDAS PRIEST)。原曲はフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)が1970年に出したシングルで、書いたのはピーター・グリーン(Peter Green)。バンドを去る直前、LSDに深く沈んでいた時期の曲だ。プロト・メタルの芽のまま置かれていたその悪夢を、プリーストはアルバム『Killing Machine』(1978年)の録音で完成形まで引き上げた。
ロブ・ハルフォードの金属質な声が、原曲に潜んでいたリフの禍々しさを研ぎ澄ます。この曲を足した米国盤は『Hell Bent for Leather』と改題されて1979年に出て、同年5月にはシングルとしても切られた。プリーストのライヴでは外せない演目として根を張り、1985年のライヴ・エイドでも鳴らしている。原曲のほうが「本当はこうなりたかった」と言いたげに聴こえる、希有な録音だ。
FIVE FINGER DEATH PUNCH「Bad Company」(2009)
最後はファイヴ・フィンガー・デス・パンチ(FIVE FINGER DEATH PUNCH)。原曲はバッド・カンパニー(Bad Company)が1974年に発表した同名曲で、それを重厚なグルーヴ・メタルとして鳴らし直した。アルバム『War Is the Answer』(2009年)に収録されたこのカバーは、原曲を知らない世代にまで広く届き、ロック・ラジオで大きく回った。
軸になるのはアイヴァン・ムーディの声だ。原曲でポール・ロジャースが見せた渋みとは別の場所に立っていて、剥き出しの力強さで押してくる。バンドは2010年初頭にイラクへ渡り、駐留する米兵の前でこの曲を演奏した。その記録映像がそのまま「Bad Company」のMVになり、同年5月にシングルとして切られている。
カバーが原曲を超える瞬間には、いつも深い解釈の力が働いている。この7曲が見せてくれるのは、ヘヴィメタルというジャンルが持つ懐の広さだ。原曲の魂を捨てずに受け取り、そこへ新しい意味を流し込む——その営みのいちばん美しい姿が、ここに7つ並んでいる。

