14年だ——エンター・シカリ(ENTER SHIKARI)が、単独公演のために東京へ戻ってくる。2012年の『A Flash Flood of Colour』ワールドツアー以来、この街でヘッドライナーの夜を持つのは実に14年ぶりとなる。会場は渋谷WWW Xで2日連続、5月28日と29日の両方を私も会場で迎える予定だ。今回の『Lose Your Self TOUR』来日公演を、心から楽しみたいと思う。
ヘッドライナー来日、14年の空白
14年というのは、当時のティーンが30代に届く長さである。エンター・シカリは2012年2月、3rdアルバム『A Flash Flood of Colour』のツアー序盤で恵比寿LIQUIDROOMに立ち、ソールドアウトの一夜を残して去った。あの夜のステージから飛んできた電子音とハードコアの衝突は、日本のフェスティバル文化が「ヘヴィな音」を一つのジャンルに収めようとしていた時期にあって明確な異物として響き、そこから10年以上の沈黙が続いた。
2023年4月のKNOTFEST JAPANには出演しているが、幕張メッセ9-11ホール、午後の早い時間帯のスロットで新譜『A Kiss for the Whole World』からの曲を中心とした短いセットを叩きつけて、彼らはステージを降りた——あれは出演であって、来日ではなかった。ヘッドライナーとしての夜を、彼らがこの街で取り返すのは、今回が14年ぶりとなる。
会場が渋谷WWW Xという選び方も考えさせられるもので、キャパシティは公称600人前後、ステージとフロアの距離がほぼゼロに近い縦長の箱、PAも小箱としては精度が高い側に振れる。北米やヨーロッパで5,000人規模のホールを満たすバンドが、東京では客と肌の触れる距離まで降りてきた——2Daysの設計には、その近さを2回噛みしめさせる意思が読める。
『Lose Your Self』、サプライズの2026年作
2026年4月10日、エンター・シカリは予告なしに8thアルバム『Lose Your Self』を配信した。前作『A Kiss for the Whole World』は2023年に英国アルバムチャート1位を獲ったキャリア最大の商業的成功作で、そこからわずか3年、事前のシングルカット展開を一切排した形で、彼らは次作を世界へ放り込んできた。
音は前作の風通しのいいアンセム性から踏み込み、ポストハードコアの骨格に電子音とブレイクビーツが食い込んで、政治的な歌詞は以前にも増して具体的なテーマを抱えている。フロントマンのルー・レイノルズ(Rou Reynolds)が長年抱えてきた「終末の予感とそれでも歌う理由」というモチーフが、収録曲を貫いて縫い目を通している。
3つの区画として聴く
全12曲の構成は聴き手の頭の中で3つの区画に区切ると見通しがよくなるもので、冒頭3曲「LOSE YOUR SELF」「Find Out The Hard Way…」「Dead In The Water」が状況設定、過剰に明るかった前作の対岸へ意識的に立たせる。中盤の「demons」「The Flick Of A Switch I.」「i can’t keep my hands clean」「it’s OK」「The Flick Of A Switch II.」が破壊と自問の連続でアルバムの心臓部となり、終盤4曲は組曲「Spaceship Earth」三部作と、その手前に置かれた「Shipwrecked!」が、出口の前に書き残す手紙のような役割を担う。
「Shipwrecked!」を待っている
9曲目「Shipwrecked!」を渋谷WWW Xで聴きたい、というのが今回のもう一つの動機である。曲は『創世記(Genesis)』への参照と、ウィリアム・ゴールディング(William Golding)の『蠅の王(Lord of the Flies)』のイメージを編み込んだ歌詞で、「我々はこの島から生きて出られるか?」というリフレインを繰り返しながら、文明という名の建前と、剥がれた後に残る本能のあいだで人間が何を選び直すのかを問う構造になっている。
サウンドの面ではアルバムの中でもピアノとシンセの比重が高いトラックで、ルー・レイノルズの声はほとんどささやきに近い領域から始まり、ブリッジでスクリームへ振り切れる。シカリの作品でこの落差を最大限に使った曲は過去にも何曲かあったが、「Shipwrecked!」はそのレンジを2026年版へ更新してきた。
歌詞の重さを、フロアでバンドが目の前にいる距離で受け取れる機会は、それほど多くは訪れない。組曲「Spaceship Earth」を最終曲として演奏するかどうかは未知数だが、「Shipwrecked!」のリフレインだけは、できれば直接耳に届く距離で受け取りたい。
直近のsetlistから見える「今のショウ」
setlist.fmに記録された2026年5月のオーストラリア公演を辿ると、Pier Bandroomメルボルン(5月19日)でのセットには「Labyrinth」「(pls) set me on fire」「Undercover Agents」「The Void Stares Back」と並んで、初期からの代表曲「Sorry, You’re Not a Winner」「Quelle Surprise」が組み込まれていて、新譜中心の構成へ寄せず、全キャリアからピックする「ベスト+新作」の編成を選んでいる。
気になるのは、アルバム表題曲「LOSE YOUR SELF」をオープナーへ据える形が直近で定着しつつあることで、1曲目で観客の体勢を一度ばらしてから、過去曲で土台を踏み直す——この順序を渋谷で2日続けて見られるなら、3曲目あたりまでにフロアの空気は完全に出来上がる。
2Daysで変わる可能性
2Days公演のシカリは初日と2日目で曲順や選曲を入れ替えてくる傾向があり、『Take to the Skies』『Common Dreads』『A Flash Flood of Colour』と続く初期3作の比重を、観客の反応を見ながら微調整するタイプのバンドである。両日参戦のファンに、同じショウを2回浴びるだけの退屈は訪れにくい。
5月28日・29日、WWW Xで待つもの
14年前のあの夜、恵比寿LIQUIDROOMで聴いた「Sorry, You’re Not a Winner」のシンセが、いまでも耳の奥のどこかで鳴っている。バンドのメンバーは40代に入り、私もそうなって、歌の主題は世界の崩壊と、それでも歌うことの意味へ深くシフトした。あの夜のシンセの輪郭は、当時のまま、今度はもう一回り小さな箱でもう一度鳴ろうとしている。
初日5月28日と2日目5月29日、両方の夜を会場で迎えて、「Shipwrecked!」が始まる瞬間に立ち会えれば、私の2026年の春はそれだけで意味を持つ。彼らがどの曲でショウを締めるのかも、当日のフロアで初めて知ることになる。

