イスラエルのORPHANED LAND——「和解」を歌うオリエンタルメタルの矛盾

ORPHANED LAND オリエンタルメタル ── イスラエルのORPHANED LAND——「和解」を歌うオリエンタルメタルの矛盾 世界のメタル
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祈りの声が三つ、同じリフの上で重なる瞬間がある。ヘブライ語の詠唱、アラビア語のうねるメリスマ、教会の聖歌めいた女声——それらが殴り合わず、重い低音の上に並んで鳴る。イスラエルのオーファンド・ランド(Orphaned Land)が二十年以上鳴らしてきたオリエンタルメタルは、その同居を音そのもので成立させてしまう。ORPHANED LAND は宗教対立の只中で「和解」を歌い続けてきたバンドだ。

オーファンド・ランドはイスラエル出身のオリエンタルメタルバンドで、ユダヤ・イスラム・キリスト教の旋律と祈りを一つの曲に同居させる。アラブ圏にも数万人規模のファンを持ち、対立の中心で和解を訴え続けてきた。2024年には Metal Hammer Award を受賞し、新作を準備している。

砂漠から鳴るオリエンタルメタル

結成は1991年。最初はありふれたデス・メタルのバンドだった。コビ・ファーヒ(Kobi Farhi)たちは、アット・ザ・ゲイツ(At the Gates)やモービッド・エンジェル(Morbid Angel)のような音を出したくて始めている。その荒い土台に、自分たちの土地で鳴っていた音を持ち込んだとき、誰も聴いたことのない混合物になった。イエメン系ユダヤの詠唱、アラブのマカーム、ウードの響き——西洋のメタルが避けてきた音階が、ギターの歪みと同じ場所で鳴り出す。

マカームの微分音は、ギターのチューニングと素直には噛み合わない。噛み合わないまま重ねるから、リフの上で旋律が不穏にうねって聴こえる。が落ちた隙間に女声の聖歌が差し込み、デス・ヴォイスの裏でアラビア語のコーラスが伸びていく。2004年の『Mabool』を通して聴くと、その配合がもう完成していたとわかる。

ORPHANED LAND オリエンタルメタル——夕暮れの砂漠にそびえる岩のシルエット
Photo by Nima Ghazaei on Unsplash

🎵 洪水神話を一枚で描いたコンセプト作。中東の旋律とデス・メタルの配合がここで固まった。
『Mabool』: Amazon

「Brother」で、兄に向かって歌う

『All Is One』(2013) の「Brother」は、このバンドの姿勢が一番はっきり出た一曲だ。ファーヒによれば、イサクが兄イシュマエルに語りかける歌だという。聖書では二人ともアブラハムの息子で、母が違う。イサクはイスラエルの民の父、イシュマエルはアラブの民の父とされてきた。憎しみの起点に置かれがちな二人を、オーファンド・ランドは兄弟として歌い直す

音は説教くさくならない。クリーンなアルペジオの上でファーヒの声が低く始まり、弦楽器とコーラスがゆっくり厚みを足していく。サビで合唱が膨らむころには、歌詞の意味を追う前に身体が持っていかれている。和解という主題を、標語ではなく旋律の高まりで運ぶから刺さる。

🎬 イサクとイシュマエル——分かたれた兄弟へ向けて歌われる、和解の核になる一曲。

アラブ圏で、隠れて聴くファンたち

このバンドの異様さは、敵対するとされる側に深く届いていることにある。レバノン、トルコ、イラン——metal そのものが白眼視され、しかもイスラエルのバンドであることが二重の壁になる土地で、隠れて聴く人が数万人規模でいる。ファーヒは「音楽は敵を友に変える」と繰り返してきた。2013年にはパレスチナのロックバンド、ハラス(Khalas)を引き連れてヨーロッパを回り、ユダヤ人とイスラム教徒が同じステージに立てることを行動で示している。

2012年には、ファンたちがノーベル平和賞の候補に推す署名活動まで起こした。「平和の大使」という呼ばれ方が、いつのまにか定着している。音を鳴らしているバンドに、国家でも宗教指導者でもできなかった橋渡しが起きてしまった。

“In our shows in Istanbul, you can see people come from Tunisia, Iran, Egypt, Lebanon or Syria. They come to see the show of an Israeli band. This small story shows the example of how we can live together and how much we are close and good friends.”

「イスタンブールのライブには、チュニジア、イラン、エジプト、レバノン、シリアから客が来る。イスラエルのバンドのステージを観るために。この小さな出来事こそ、私たちがともに生きられること、どれほど近くて良い友人であれるかを示している」

— コビ・ファーヒ(Anadolu Agency インタビュー)

ORPHANED LAND オリエンタルメタル——エルサレム旧市街の石壁の街並み
Photo by David Holifield on Unsplash

和解を歌うことの、矛盾と重さ

和解を歌うことは、きれいごとと紙一重だ。現実の暴力は止まないし、2023年以降の中東情勢のなかで、ファーヒ自身が「音楽による団結は生き残れるのか」と問い直してもいる。歌が戦争を止めた事実は、どこにもない。それでも彼は和解を取り下げない。矛盾を抱えたまま歌い続けること自体が、このバンドの芯になっている。

「Like Orpheus」では、ブラインド・ガーディアン(Blind Guardian)のハンズィ・キアシュ(Hansi Kürsch)を客演に迎えた。神話のオルフェウスに、声を奪われても歌い続ける表現者を重ねている。冥府から振り返るなと言われた男の物語へ、撤回できない歌い手の業がぴたりと乗る。

ORPHANED LAND オリエンタルメタル——夜の砂漠に広がる暗い地平
Photo by Akhil Lincoln on Unsplash

🎬 ハンズィ・キアシュ客演。沈黙を強いられても歌い続ける者の歌。

30年を超えて、まだ和解を鳴らす

2024年、オーファンド・ランドは Metal Hammer Award の「Best Attitude」を受賞した。宗教と文化の共存へ向けた姿勢が、音楽性とは別の軸で評価された格好になる。同じ年に大規模なツアーを走り抜け、2025年からは新作の制作に腰を据えている。新しいアルバムは2026年に届く見込みだ。

祈りの言葉が違っても、重い低音の上では同じ重さで鳴る。オーファンド・ランドの音は、それを耳のほうから先に納得させてくる。和解からいちばん遠い場所にいる人間が、和解を音にし続けている。その矛盾ごと、この音は今も鳴っている。

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