ジャーマンスラッシュとルール地方——炭鉱と鉄が生んだKREATORとSODOMの轟音

ジャーマンスラッシュ ルール地方 ── ジャーマンスラッシュとルール地方——炭鉱と鉄が生んだKREATORとSODOMの轟音 雑学・コラム
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針金を鉄やすりで擦ったような音がある。歪んでいるのに湿り気がなく、どこまでも乾いている。クリエイター(Kreator)の初期音源を初めて通しで聴いたとき、耳に残ったのはメロディでも速さでもなく、その金属が金属を削る質感だった。ジャーマンスラッシュがアメリカのスラッシュと決定的に違うのは、この汚れにある。汚れの出どころをたどると、ルール地方という土地に行き着く。

ジャーマンスラッシュの荒く汚れた音は、ルール地方の炭鉱と製鉄所が並ぶ工業地帯から生まれた。クリエイターとソドムは労働者の街で結成され、その土地の手触りをそのまま鳴らしている。

ルール地方とは、どんな土地か

ルール地方(Ruhrgebiet)は、ドイツ西部のノルトライン=ヴェストファーレン州に広がる工業地帯を指す。エッセン、ゲルゼンキルヘン、ドルトムント、ボーフムと、炭鉱や製鉄所で栄えた街が川沿いに連なっている。

石炭を掘り、鉄を打つ。煤と油にまみれたシフト勤務が、何世代にもわたってこの土地の暮らしを回してきた。1980年代に入ってもルールはまだ騒がしく、汚れていて、硬かった。そこで育った子どもの多くは、父親と同じ労働者の家から出ている。彼らが手にした楽器から、うるさくて硬い音が出てきたのは、ごく自然な成り行きだった。

ジャーマンスラッシュ——夕暮れに煙を噴き上げる工業地帯の煙突
Photo by Vladimir Zoloto on Unsplash

炭鉱から出てきたバンド

ソドム(Sodom)のトム・アンジェルリッパー(Tom Angelripper)は、ゲルゼンキルヘンの炭鉱で10年働いている。父も祖父も炭鉱夫で、坑内の鍛冶職に就くことを決めたのは父だった。潜っていた深さは地下1,000メートル。最初のベースはその稼ぎで買い、坑内労働と並行して弾き方を覚えている。バンドを始めた動機の一つが、その炭鉱から抜け出すことにあった。音楽は趣味ではなく、暮らしを変えるための手段として鳴らされていた。

“When I was in the coal mine, I remember thinking a lot of my friends were gonna die in there. We were 1,000 meters deep, and that is a very hard job, you know.”

「炭鉱にいた頃は、仲間の何人かはここで死ぬんだろうと思っていた。地下1,000メートルだぞ。ほんとうにきつい仕事なんだ」

— トム・アンジェルリッパー(Sodom)/Decibel 誌インタビュー(2011年)

クリエイターのミレ・ペトロッツァ(Mille Petrozza)は、エッセンで1982年に最初のバンドを組んでいる。まだ十代半ばだ。名前はMetal Militiaから始まり、Tyrant、Tormentorと移ろい、1984年にクリエイターへ落ち着いた。工業地帯のただ中で、少年たちが世界一速くて汚い音を鳴らそうとしていたことになる。

その音が鳴らしているもの

クリエイターのセカンド『Pleasure to Kill』(1986年)を再生すると、演奏が前のめりに転がっていくのがわかる。リフは刻むというより、削り出している。ギターの音は不必要に磨かれておらず、弦のざらつきが残ったままだ。プロダクションが乾いているぶん、刻みの一発ごとに角が立って、耳の奥を引っかいてくる。冒頭の数十秒で、もう逃げ場がなくなる。

ルール地方——夜の闇に煙を吐く製鉄所の煙突
Photo by Mats Havia on Unsplash

🎬 1986年セカンドのタイトル曲。公式映像。

ソドムの轟きと、その重さ

ソドムの『Agent Orange』(1989年)は、ドイツ国内だけで10万枚を売り上げた。クリエイターの切れ味とは別の方向で、この音は重い。タイトル曲のリフは刻みの鋭さより、低い唸りで地を這っていく。トム・アンジェルリッパーの濁声が、その上に重く乗る。炭鉱で覚えた身体の重さが、そのまま音の重心になっているように聞こえる。

その一枚が、彼を坑道から引き上げた。レコード会社から入った金で、アンジェルリッパーは1989年に炭鉱を辞めている。抜け出すために鳴らした音が、本当に抜け出させた。

🎵 ドイツ国内だけで10万枚を売った1989年作。
『Agent Orange』: Amazon

デストラクションという例外

デストラクション(Destruction)は、この地理から大きく外れている。結成は1982年、ヴァイル・アム・ライン——バーデン=ヴュルテンベルク州の、スイス国境にほど近い南西の町だ。ルール地方からは数百キロ離れていて、炭鉱の煙突はこの風景には立っていない。

シュミーア(Schmier)が率いたこのバンドの音は、クリエイターほど整っていない。デビューEP『Sentence of Death』(1984年)と初フル『Infernal Overkill』(1985年)のリフは、よく聴くとどこか「間違って」聞こえる。その歪みこそが、デストラクション特有の不穏さになっている。ジャーマンスラッシュの四天王(Big Four)は、クリエイター、ソドム、デストラクション、タンカード(Tankard)の四つを指す。タンカードはフランクフルトの出身で、シーンはルールだけの産物ではなかった。とはいえ、その中心の二つを押さえているのは、まぎれもなくルール地方だ。

🎵 1985年のデビュー・フルアルバム。
『Infernal Overkill』: Amazon楽天ブックス

ビールと、汚れたままでいること

労働者の街の夜は、ビールと切り離せない。シフトを終えた身体が、安い酒場の一杯でようやくほぐれる。汗と煤を流し込むその時間が、街の音楽の温度を決めていた。ソドムが最初に手本にしたのは、アメリカの精緻なスラッシュではない。イギリスのパンク——GBHやEnglish Dogsの荒さと、ヴェノム(Venom)のデビュー作『Welcome to Hell』の闇だった。

クリエイターは狙いが違う。『Pleasure to Kill』の現場で、彼らがプロデューサーに聴かせたのはポゼスト(Possessed)の『Seven Churches』とスレイヤー(Slayer)の『Hell Awaits』だ。手本はアメリカ側の、いちばん極端な音にあった。それでも鳴ったのは手本の音ではない。狙った先がどこであれ、出てくる手触りは土地のほうが決めていた。

演奏が完璧に揃っていないこと自体が、この音をざらつかせている。きれいに均すより、汚れたまま差し出すほうを彼らは選んだ。その選択が、ジャーマンスラッシュを今も模倣の難しい音にしている。整えてしまえば、煤も汗も洗い流されてしまう。

ジャーマンスラッシュ——夜にもうもうと煙を上げる工場
Photo by Joseph Prakash on Unsplash
ルール地方の労働者文化が、整えられないまま音になった。それがジャーマンスラッシュの汚れであり、40年以上経っても煤の匂いが消えない理由になっている。

ルールの煙突は、いまではずいぶん数を減らした。炭鉱の多くは閉じ、街の空気もあの頃より澄んでいる。それでもクリエイターやソドムの一枚をかければ、煤と油と汗の匂いが、スピーカーの奥から立ちのぼってくる。あの土地が鳴らしていたものは、録音の中で今も生きている。

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