ヘヴィメタルの語源は、なぜバイクだと信じられてきたのか

ヘヴィメタル 語源 ── ヘヴィメタルの語源は、なぜバイクだと信じられてきたのか 雑学・コラム
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ヘヴィメタル」というジャンル名は、誰が作ったのか。最初にそう呼んだのは、バンドでも評論家でもなかった。語源をたどると、一冊の小説と、山道で鳴った本物の雷と、悪意まじりの一行に行き着く。バイクの咆哮から生まれた名前——そう語られがちなこの言葉は、音楽と関係のない場所を三度も経由して、いまの位置へ着いている。

「ヘヴィメタル」という言葉は、音楽のために作られたものではない。1961年にウィリアム・S・バロウズの小説へ登場し、1968年にはステッペンウルフの歌詞で本物の雷を指し、1970年に評論家がバンドを揶揄する言葉として使った。音楽と無縁の3つの出所を経て、この言葉はジャンルの名前になっている。

1961年、ヘヴィメタルの語源は文学の中にあった

ヘヴィメタル 語源——暗い木の机に置かれたアンティークのタイプライター
Photo by Patrick Fore on Unsplash

ウィリアム・S・バロウズ(William S. Burroughs)は、アメリカのビート文学を代表する作家だ。

1961年に発表した小説『ソフトマシーン(The Soft Machine)』に、ひとりのキャラクターが出てくる。ウラニアン・ウィリー(Uranian Willy)。通称は「ヘヴィ・メタル・キッド(The Heavy Metal Kid)」。

バロウズはこの言葉を音楽とはまるで無関係に使った。薬物依存の世界観をあらわす比喩として選んでいる。本人の説明が残っている。

“I felt that heavy metal was sort of the ultimate expression of addiction, that there’s something actually metallic in addiction, that the final stage reached is not so much vegetable as mineral.”

「ヘヴィメタルは依存の究極の表現だと感じていた。依存には実際に金属的なものがある。行き着く最終段階は、植物というより鉱物なんだ」

— William S. Burroughs / The Paris Review「The Art of Fiction No. 36」(1965)

もとは化学の言葉でもあった

ヘヴィメタル(重金属)」は、化学にも生きている言葉だ。比重の大きい金属元素——鉛・水銀・カドミウムなど——を指す用語である。バロウズの頭にあった「鉱物」の手ざわりも、この重金属から来ている。

語源として『裸のランチ(Naked Lunch)』を挙げる記述をよく見かける。あの語が実際に出てくるのは『ソフトマシーン』のほうだ。ジャンル名の出発点は、ロックの現場ではなく一冊の小説の中にあった。

1968年、バイクの歌に紛れ込んだ言葉

ヘヴィメタル 語源——暗い道路を疾走するオートバイ
Photo by Jr Korpa on Unsplash

1968年、ステッペンウルフ(Steppenwolf)のデビュー・アルバムに収められた一曲が、その年の夏にラジオを席巻する。曲の名は「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド(Born to Be Wild)」。その2番の歌詞に、あの一節がまぎれ込んでいた。

「ヘヴィ・メタル・サンダー(heavy metal thunder)」

詞を書いたのはマーズ・ボンファイヤー(Mars Bonfire)。頭にあったのはバイクでも音楽ジャンルでもなく、一度きりの雷雨だった。

“At one point I was in the mountains during a thunderstorm. It was so heavy I had to pull aside and park. And that’s when the phrase ‘heavy metal thunder’ came to me.”

「山にいたとき、雷雨につかまった。あまりに激しくて、車を路肩に停めるしかなかった。『ヘヴィ・メタル・サンダー』という言葉が浮かんだのは、そのときだ」

— Mars Bonfire / Classic Rock(2018)

ロサンゼルス郊外の山道を車で流していた最中の話だ。空が暗く沈み、稲妻が落ちる。その瞬間、学校で覚えた周期表がよみがえった——元素の並びに「重金属(heavy metals)」というくくりがあったな、と。落雷の轟きと、その言葉が勝手に結びつく。あの一節は、目の前で鳴っていた本物の雷を指していた。

曲は全米シングルチャートの2位まで駆け上がる。翌年の映画『イージー・ライダー(Easy Rider)』に乗って、この歌は自由と反骨の匂いをまとった。雷から生まれた四音節が、こんどは開けた道を行くエンジンの音と重なっていく。語源はバイクだと信じられている理由は、この重なりにある。

1970年、評論家が「ジャンル名」に変えた

この言葉を音楽批評の現場へ引き入れたのが、アメリカの音楽評論家レスター・バングス(Lester Bangs)だ。

1970年2月7日号のローリング・ストーン誌(Rolling Stone)に、ゲス・フー(The Guess Who)の『Canned Wheat』を論じたレビューが載る。バングスはそこで、この一年に湧いて出た「ヘヴィ・メタルのロボットたち(heavy metal robots)」と書いた。ロボット呼ばわりだから、ほめてはいない。機械的で創造性がない、という侮蔑だ。

音楽を指した使用例としては、確認できるかぎりこれが最も早い部類に入る。ジャンルの名として広めた功績なら、同じ年の11月にローリング・ストーン誌でハンブル・パイ(Humble Pie)を酷評したマイク・サンダース(Mike Saunders)を挙げる説も根強い。名付け親を一人に絞りきれないまま、言葉だけが先に走り出していた。

悪口が称号になるまで

皮肉なことに、この呼び名は最初、ほめ言葉として置かれたものではなかった。「重たくて機械じみた音楽」——そういう揶揄の匂いをまとっていた。

バングス本人が、ブラック・サバス(Black Sabbath)を論じるときに好んで使ったのは「ダウナー・ロック(downer rock)」の呼び名で、ヘヴィメタルではなかった。名付け親とされる当人が、いちばん重い音を鳴らしていたバンドをその名では呼ばなかった。それでも10年と経たないうちに、この言葉はファンが胸を張って名乗る看板へ変わっていく。

70年代後半、言葉が自分の場所を見つけた

バングスが書きはじめた1970年代初頭、「ヘヴィメタル」の輪郭はまだぼやけていた。それが10年と経たずに形を取りはじめる。

1970年代後半、イギリスで一つの音楽運動が噴き出す。「ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM」——1979年5月、サウンズ誌(Sounds)の記事から広まったこの呼び名が、アイアン・メイデン(Iron Maiden)を表舞台へ押し上げる。先に世に出ていたジューダス・プリースト(Judas Priest)も、この波に乗って1980年の『British Steel』で届く場所を大きく広げた。

バンド自身が「名乗る」ようになった

評論家が外から貼ったラベルを、バンドのほうから進んで引き受けるようになる。言葉の所有権が、書き手の側から、鳴らす側へ移っていった。

ファンの側も足並みをそろえた。投げつけられた悪罵を、彼らはわざわざ誇りとして拾い上げる。こうして「ヘヴィメタル」は市民権を得て、いまに続くジャンル名として腰を据えた。

ジャンルの名前が当事者の外側から降ってくるのは、珍しい話ではない。パラダイス・ロスト(Paradise Lost)の『Gothic』(1991)のように、バンドが付けた作品名がそのままジャンルの呼び名になった例もある。ヘヴィメタルの場合、名前は音の内側からではなく、小説と雷と侮蔑を経由して外から届いた。

文学のページから生まれ、雷を指す一行として歌に紛れ、悪口として音楽に貼られた。その言葉を、いまでは数えきれないほどの人間が胸を張って名乗っている。メタルのためにあつらえられた名前じゃない。それでも、この名前ほどこの音が似合う器を、私は他に知らない。

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