メタルを聴き始めた頃、最初にハマるジャンルは人それぞれだ。だがどこかで、「速くて、高くて、ドラマチック」な音楽に出会う瞬間がやってくる。重いリフに高音ボーカルが叫び、壮大なコーラスがせり上がっていく——それが欧州パワーメタルの世界だ。
この音楽には「物語」がある。英雄や戦い、神話、ファンタジー。そのすべてが、1987年のドイツから始まった。
1987年、ドイツのハロウィンが「速く、高く、壮大」なメタルを生み出した。それがパワーメタル——英雄や神話を物語る、疾走と叙事詩の音楽だ。やがてドイツとフィンランドの四つのバンドが、この世界を大きく押し広げていった。
パワーメタルとは何か——「速さ」「高音」「叙事詩」の三位一体
まずパワーメタルの3つの柱を押さえておきたい。ひとつ目は「速さ」で、ツーバスのドラムと刻みの速いリフが基本になる。ふたつ目が「高音」、クリーンなハイトーン・ボイスがこのジャンルの顔だ。三つ目は「叙事詩的なテーマ」で、英雄や神話、ファンタジーを主題にする。この3要素が絡み合うところに、ほかにない世界観が立ち上がる。
起源はNWOBHMとスピードメタルの融合
NWOBHMとは何か。New Wave of British Heavy Metalの略で、1970年代後半から80年代の英国で興り、メタルに速さを与えた潮流だ。同じ時期、スピードメタルが技術と速度を突き詰めていた。そこへドイツのバンドたちが加わり、ふたつの要素を融合させながらメロディを乗せる実験を始める。その実験の果てに、パワーメタルというジャンルが生まれた。
ハロウィン(Helloween)——1987年、すべてはここから始まった
主役はハロウィン(Helloween)だ。1984年、ドイツのハンブルクで結成され、もともとは攻撃的なスピードメタルに近いサウンドを鳴らしていた。転機が訪れたのは1987年のこと。新しいボーカルとしてマイケル・キスク(Michael Kiske)が加入した。
パワーメタル誕生の瞬間——『Keeper of the Seven Keys』
原点は1987年の第3作、アルバム『Keeper of the Seven Keys: Part I』にある。透明感のあるハイトーン・ボイスとキャッチーなメロディが同居し、それまでのスラッシュ色が消えて、まったく別の音楽へ進化していた。翌1988年のPart IIで、ジャンルとしての輪郭が固まる。なかでも「Eagle Fly Free」は外せない。パワーメタルのアンセムと呼ぶにふさわしい1曲だ。
カイ・ハンセンの旅立ちとガンマ・レイ(Gamma Ray)
創設者のカイ・ハンセン(Kai Hansen)にも転機が訪れる。1989年1月にHelloweenを脱退し、その後ガンマ・レイ(Gamma Ray)を結成した。Helloweenの遺伝子を受け継ぐバンドが、ここでふたつに枝分かれしたことになる。マイケル・キスクのほうは1993年に解雇され、バンドはそこから別の道へ進んでいく。こうした分岐のひとつひとつが、欧州パワーメタルの幅を広げていった。
ブラインド・ガーディアン(Blind Guardian)——物語を音楽にした詩人たち
ハロウィンと並ぶもう一つの巨人が、ブラインド・ガーディアン(Blind Guardian)だ。1984年、西ドイツのクレーフェルトで結成され、前身バンドは「Lucifer’s Heritage」を名乗っていた。中心にいるのはボーカルのハンジ・キュルシュ(Hansi Kürsch)と、ギタリストのアンドレ・オルブリッヒ(André Olbrich)。このふたりがバンドを牽引してきた。1987年に現在の名前へ改名し、翌1988年にデビュー作を発表する。
『Nightfall in Middle-Earth』——トールキンとメタルが出会った瞬間
とりわけ名高いのが、1998年のアルバム『Nightfall in Middle-Earth』だ。J・R・R・トールキンの『シルマリルリオン』を基にした作品で、楽曲だけでなく物語のナレーションまで収録されている。発表は早かった。ピーター・ジャクソンの映画「ロード・オブ・ザ・リング」より3年も前のことだ。Blind Guardianはトールキン・ブームの到来を音楽で先取りしていたことになる。代表曲「The Bard’s Song」は、今もライブの定番として世界中で歌われている。
ストラトヴァリウス(Stratovarius)——フィンランドが生んだネオクラシカルの疾走
欧州パワーメタルの主要産地は、ドイツだけではない。フィンランドも欠かせない土地だ。なかでも要になるのがストラトヴァリウス(Stratovarius)。1984年にフィンランドで「Black Water」として結成され、1985年末に現在のバンド名へ改名している。その名はStratocasterとStradivariusの合成語だ。ギターとクラシック弦楽器の融合——その哲学が、バンド名そのものに刻まれている。
ティモ・トルッキとネオクラシカルの疾走
牽引役はティモ・トルッキ(Timo Tolkki)。ギタリスト兼ソングライターとして、バンドの黄金期を支えた人物だ。彼のスタイルは「ネオクラシカル・メタル」と呼ばれる。クラシック音楽の語法を、メタルのフレーズへ持ち込んだ奏法のことだ。「Hunting High and Low」はトルッキ作曲の代表曲で、「Forever」「Black Diamond」といった名曲も残している。なかでも1997年『Visions』と1998年『Destiny』は外せない。欧州パワーメタルの必聴盤として広く評価されている。
ナイトウィッシュ(Nightwish)——シンフォニックという進化の果て
1996年、フィンランドのキテェで新たな扉が開いた。中心人物はトゥオマス・ホロパイネン(Tuomas Holopainen)。キーボード奏者の彼が立ち上げたのが、ナイトウィッシュ(Nightwish)だ。出発点はアコースティックなプロジェクトだったが、すぐにヘヴィなバンド編成へと姿を変えた。
ターヤの声と「シンフォニック」という新次元
中心にいるのは、ボーカルのターヤ・トゥルネン(Tarja Turunen)。クラシックの訓練を受けたソプラノの声が、彼女の個性だった。その声が、パワーメタルに「シンフォニック」という新次元をもたらす。名声を決定づけた2枚が、1998年『Oceanborn』と2000年『Wishmaster』だ。だが2005年10月、転機が訪れる。ヘルシンキ公演の直後、ターヤは公開書簡で解雇された。その後の道のりは平坦ではない。現在はフロア・イェンセン(Floor Jansen)が在籍し、2024年にはアルバム『Yesterwynde』を発表している。バンドは今も進化を続けている。
まず聴くべき1枚——『Keeper of the Seven Keys, Pt. II』(1988年)
最初に手に取る1枚を選ぶなら、これだ。欧州パワーメタルの「入口」として、これ以上ない。
「Eagle Fly Free」から「I Want Out」へ続く流れが白眉で、キャッチーさと重さが見事に同居している。マイケル・キスクのボーカルは、今聴いても少しも色褪せない。この1枚を起点に置けば、ブラインド・ガーディアン、ストラトヴァリウス、ナイトウィッシュへと世界がひらけていく。欧州パワーメタルの地図が、自然と見えてくるはずだ。
速く、高く、叙事詩的に——欧州パワーメタルには独特の光がある。ヘヴィなのに、どこか希望を感じさせる。だからこそ、暗さと明るさが同居するその世界観は、一度ハマると抜け出せない。
1987年、ハンブルクから旅は始まった。その旅は今もフィンランドから世界へと続いている。入口の一枚を聴き、そこから各バンドの代表作へ——地図はおのずとつながっていく。


