STRATOVARIUS『Visions』(1997)——北欧パワーメタルの設計図が完成した一枚

Visions パワーメタル ── STRATOVARIUS『Visions』(1997)——北欧パワーメタルの設計図が完成した一枚 名盤ガイド
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「ブラック・ダイアモンド」の最初の数秒で、背骨の角度が変わる。キーボードとギターが同じ速度で駆け上がり、追い越し合い、サビでまとめて空へ抜けていく。ストラトヴァリウス(STRATOVARIUS)が1997年に出した6枚目『Visions』は、北欧パワーメタルがこの先ずっと参照することになる設計図を、一枚の中に引き切ったアルバムだ。

『Visions』は、フィンランドのバンド、ストラトヴァリウスが1997年に発表したパワーメタルの名盤だ。キーボードとギターが対等に旋律を奪い合う様式と、空へ伸びるの歌をひとつに固め、後続のバンドがこぞって手本にした。

『Visions』が描いたパワーメタルの設計図

頭から終わりまで通すと、全体が一本の様式で貫かれているのがわかる。速いの上に、クラシック由来の音階が滑り込む。ギターが弾いたフレーズを、キーボードがそっくり同じ速さで返す。歌は高い音域に旋律を張り、サビで一気に合唱へ開く。のちにヨーロッパのパワーメタルが標準装備にしていく道具立てが、ここでほぼ出揃っている。

聴いていて感心するのは、それが寄せ集めに聞こえないところだ。様式を並べたのではなく、ひとつの音像として鳴っている。プロデュースまで握ったティモ・トルキ(Timo Tolkki)の耳が効いていて、各パートの分離が良く、速い場面でも音が団子にならない。重さで殴る種類の作品ではないのに、聴き終えるとずしりとした手応えが残る。1曲目「キス・オブ・ジューダス」が中速の荘厳な入りで扉を開け、そこから一気に加速していく流れも、よく考えられた配置だ。

🎵 1997年作・全10曲。ノストラダムスを題材にしたコンセプト作で、北欧パワーメタルの基準点とされる一枚。
『Visions』: Amazon
Visions パワーメタル——北欧の夜空に揺れるオーロラ
Photo by Sami Matias Breilin on Unsplash

「ブラック・ダイアモンド」という名刺

このバンドを一曲で説明しろと言われたら、2曲目の「ブラック・ダイアモンド」を出す。日本盤の先行シングルにもなった曲で、ライブでも看板として今なお演奏され続けている。

イントロのキーボードが鍵盤を駆け下りてくる。そこへギターが食らいつき、二つの楽器が掛け合いのまま加速する。ティモ・コティペルト(Timo Kotipelto)の声は、低い所で粘らず高い音域へ抜けていくタイプで、サビで一段持ち上がるたびに視界が開ける。速さと旋律を同じ重さで両立させる――この曲が出した解法を、のちのバンドはまるごと受け継いだ。

派手なだけの曲ではない。間奏でキーボードソロとギターソロが互いの手癖を真似て受け渡すので、二人のが勝負ではなく対話に聞こえる。聴くたびに、どちらが先に走り出したのか分からなくなる瞬間がある。

Visions パワーメタル——逆光のステージに浮かぶ観客のシルエット
Photo by Gabriel Mihalcea on Unsplash

最強と呼ばれた編成

『Visions』の音を支えているのは、その前年に固まったメンバー構成だ。鍵盤のイェンス・ヨハンソン(Jens Johansson)は、80年代にイングヴェイ・マルムスティーン(Yngwie Malmsteen)のバンドで弾いていた男で、クラシックの語彙をメタルの速度で操る手を持っている。ドラムのヨルグ・マイケル(Jörg Michael)はレイジ(Rage)などを渡り歩いてきた職人だ。この二人が前作『Episode』(1996年)から加わり、本作で噛み合わせが完成形に届いた。

ベースのヤリ・カイヌライネン(Jari Kainulainen)が土台を低く保ち、トルキのギターとヨハンソンの鍵盤が上物を担う。役割がきれいに分かれているから、全員が速く動く場面でも音がぶつからずに整理されたまま走る。10年近く崩れなかったこの編成を、ファンが「黄金期」と呼ぶのは大げさではない。腕の立つ個人を集めただけでなく、互いの隙間を埋め合う設計が音に出ている。

「フォーエヴァー・フリー」と10分の組曲

速い曲だけのアルバムではない。3曲目の「フォーエヴァー・フリー」は、コティペルトの声を真ん中に置いたバラードで、Aメロを抑えて歌い、サビでようやく声量を解放する設計になっている。歌そのものが主役の曲で、彼の声の伸びがいちばん素直に出る。速さを外しても様式が痩せないことが、この一曲でわかる。

最後に置かれた表題曲「Visions」は、約10分かけてノストラダムスの予言を音にした組曲だ。静かな入りから合唱を挟み、終盤で全パートが集まって大きくうねる。野心がそのまま尺になった一曲で、聴きごたえは確かにある。

もっとも、この長尺をアルバム随一と取るか、流れを止めると取るかは聴き手で割れる。米AllMusic は本作に5点満点中4点をつけた。評者のスティーヴ・ヒューイ(Steve Huey)は、素材の多くが自らの重さに沈む、とりわけ10分の表題曲が、と書いている。私の耳には、長さに見合うだけの場面転換がきちんと組み込まれて聞こえる。評価が割れること自体が、この曲の振れ幅の大きさを物語っている。

なぜ今も設計図と呼ばれるのか

『Visions』はフィンランドのチャートで4位に入り、23週とどまった。数字以上に効いたのは、この音が次の世代の出発点になったことだ。同じフィンランドのソナタ・アークティカ(Sonata Arctica)、日本のガルネリウス(Galneryus)――鍵盤とギターを対等に走らせ、で歌い上げる流派は、ここで引かれた線の上を進んでいる。2016年には英メタル・ハマー誌が「必聴のパワーメタル10枚」に本作を挙げた。

聴いていて不思議なのは、発表から三十年近く経っても古びて聞こえないところだ。録音はやや乾いていて、いまの分厚い音圧とは肌触りが違う。それでも旋律の組み立てと演奏の精度が、時代の差を軽々と埋めてくる。入門のつもりで一枚目に置いても、長く聴いてきた耳で確かめ直しても、ちゃんと応えてくれる作りになっている。

この一枚に最近たどり着いた海外のリスナーも、同じ場所で足を止めている。音楽レビューサイト Album of the Year に残された声が、それを教えてくれる。

“Though not as fast as Blind Guardian, the solos here are very clean, impressive and quite stunning. The slower moments on here give an atmosphere of beauty and awe.”

ブラインド・ガーディアン(Blind Guardian)ほど速くはない。それでもここでのソロは端正で、見事としか言いようがない。ゆっくりした場面には、美しさと畏れの空気が流れている。

— Album of the Year ユーザーレビュー(Lady6ov6Fire)

Visions パワーメタル——雪原の森を照らす北欧の夜のオーロラ
Photo by Juho Luomala on Unsplash

パワーメタルという言葉に、速いだけ・大げさなだけ、という印象を持つ人は少なくない。この一枚は、その先入観をゆっくりほどいていく。速さの内側にきちんと旋律の理屈が通っていて、大仰に聞こえる場面ほど構成が緻密に計算されている。鳴っている事実を追うだけでも、十分に面白い。

名盤と呼ばれる作品には、聴く前に身構えさせる手強さがつきまとう。『Visions』にはそれがない。最初の「ブラック・ダイアモンド」で勝手に体が動き出し、最後の組曲を聴き終える頃には、北欧の冬の空気ごと連れていかれている。設計図という言葉は冷たく響くが、ここで鳴っているのは、隅々まで血の通った熱だ。音量を上げて頭から一度通せば、1997年のフィンランドが何を完成させたのか、耳がすぐに教えてくれる。

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