声が3つ、1曲のなかで入れ替わる。クリーンな女声が歌メロを運び、その背中からクリーンな男声がコーラスを重ね、デス声が半拍だけ斜めに割り込む。AMARANTHE(アマランス)を初めて聴くと、まず耳を掴むのはこの入れ替わりの速さだ。AMARANTHE入門は、この3人ボーカルの異物感に耳を慣らすところから始めたい。
3人ボーカルが速さを生む仕組み
普通のメタルなら、サビはメインボーカルが歌い上げ、デス声は間奏やブレイクの装飾に回る。デス声は飾りの位置から動けない。AMARANTHEはこの配置をそのまま崩す。
エリーゼ・リード(Elize Ryd)の女声、ニルス・モリン(Nils Molin)の男声、ミカエル・セリン(Mikael Sehlin)のデス声。この3人が、ヴァースとサビの単位で走者を替える。主旋律は4小節ごとに声を替え、その4小節のなかでさえ、半小節をセリンが奪って入る箇所がある。演出ではなく、構造である。耳が次の声を予測するより先に、フックの位置にはもう別の声が立っている。
バンドが掲げる「Massive Modern Metal」の”速さ”は、BPMの数値では測れない。声の立つ位置が4小節ごとに更新される、その更新の頻度が”速さ”の中身だ。リフのレイヤーを、そのまま声で置き換えていると言ってもいい。
ここで耳が割れる。3つの声を「賑やかさ」として聴くか、「リフがメロディーで歌っているのと同じ」として聴くか。後者に切り替わったとき、デス声はメロディーの裏に貼り付いた歪んだリフのように届きはじめる。
結成から『The Catalyst』までの15年
オーロフ・モルク(Olof Mörck)とクリーン男声のジェイク・E(Jake E)が2008年にバンドを始めた頃、エリーゼはKamelotのツアーにサポートで帯同する若手だった。1stアルバム『Amaranthe』(2011)はスウェーデン35位・フィンランド16位のローカルなヒットにとどまる。流れを変えたのは3rd『Massive Addictive』(2014)だ。米ビルボードのヒートシーカーズ・チャートで初登場1位を取り、スカンジナビアのローカルバンドという括りがここで外れた。
3人で主旋律を分け持つ作りには弱点がある。誰か一人が抜けた瞬間、バンドが一度成立しなくなる。AMARANTHEはこの弱点を、15年で2度くぐっている。2017年、ジェイク・Eが脱退し、Dynaztyのニルス・モリンが代役からそのまま正規に収まる。2022年には、2013年から9年デス声を担ったヘンリク・エングルンド(Henrik Englund Wilhelmsson)が、家族との時間を優先して離れていく。
後任のミカエル・セリンが公表されたのは翌2023年6月のことだ。その声を最初に届けたのが、同じ日に公開されたシングル「Damnation Flame」だった。
『The Catalyst』(2024)は、新しい3声が1枚を通して鳴った最初の作品だ。エレクトロの比重を前作より重く乗せている。Blabbermouthのドム・ローソン(Dom Lawson)は10点満点で9点をつけ、「AMARANTHEがこれまで作った最高の1枚」と評した。2008年に組んだ3人ボーカルの枠をほとんど動かさず、それでも7枚目で批評的な最高評価を更新している。
AMARANTHE入門に通したい3作
スタジオアルバム7枚から、最初に通す3枚を絞った。頭から順に舐めるより、方法論の違う3つの入口から入った方が、このバンドの幅は短時間で見える。
『The Nexus』(2013)は、3人ボーカルがまだ装飾に響いていたデビュー作から一歩抜けて、3つの声が曲のなかで役割を奪い合いはじめた最初のアルバムだ。タイトル曲のMVは、In FlamesやArch Enemyの映像で知られるパトリック・ウラエウス(Patric Ullaeus)が撮った。ハリウッドのアクション映画の呼吸でメタルMVを撮る、当時のヨーロッパの空気がそのまま残っている。
『Massive Addictive』(2014)は、アメリカ市場でバンドを押し上げた3rdだ。第1シングル「Drop Dead Cynical」が看板になった。MVはMMAファイターとチアリーダーと派手な火薬で組まれ、メタルの定型から外れた絵にSNSの賛否は激しく割れた。この曲では、3声が小節単位で入れ替わる方法論がもっとも明瞭に出ている。入門の一枚目に置くなら、これだ。
『The Catalyst』(2024)は、セリン加入後の初フル盤だ。エレクトロを増やしてもグロウルが食われない仕上がりに着地した。後半「Stay a Little While」ではピアノとエリーゼだけのバラードに振れて、3声フォーマットの外し方まで同じ1枚に入っている。
「軽い」と切る前に
メタルの内側には、AMARANTHEへの根強い懐疑がある。ポップすぎる、シンガロングが甘い、エレクトロが入りすぎ。最初にひっかかる違和感は、だいたい固定されている。20年メタルを聴いてきた身にも、最初の数曲で全部わかった気になりかけた覚えがある。
“When they debuted in 2009 as a three-headed pop-metal singing machine, they were an acquired taste, but they’ve won a legion of fans by deftly sticking to a winning formula with enough reinvention to keep their music fresh.”
「2009年に『3つ首のポップ・メタル歌唱マシン』としてデビューした頃は、好みの分かれる存在だった。だが勝ち筋を巧みに守りつつ、音を新鮮に保つだけの作り替えは怠らず、彼らは膨大なファンを味方につけてきた」
— Louder(Holly Wright)
ジャンルの純度を守る派と、境界を動かす派、どちらが正しいかを論じる気はない。書き手として確認できるのは事実の側だ。3人ボーカルというフォーマットを15年ほとんど動かさず、それでも批評的な評価は最高値を更新した。方法論が一過性のギミックでなかったことを、バンドは15年かけて自前で証明したに等しい。
初めてメタルを聴く人にも、長く聴いてきた人にも、AMARANTHE入門の3枚は自分の耳の振れ幅を測る目盛りになる。合うか合わないかを決める前に、まず3つの声が走る曲を続けて浴びる。「賑やかさ」に聞こえていたものが「メロディーの構造そのもの」へ切り替わる瞬間が、聴き込むうちに訪れる。
15年ひとつの枠を動かさず、それでも7枚目でいちばん遠くへ届いた。その一点だけで、この音は一度耳を通す値打ちがある。

