AMARANTHE入門——「3人ボーカル」が作る現代メロディック・メタルの完成形

AMARANTHE入門——「3人ボーカル」が作る現代メロディック・メタルの完成形 名盤ガイド
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声が3つ、1曲のなかで入れ替わる。クリーンな女声が歌メロを運び、その背中からクリーンな男声がコーラスを重ね、デス声が半拍だけ斜めに割り込む。AMARANTHE(アマランスを初めて聴くと、まず耳を掴むのはこの入れ替わりの速さだ。AMARANTHE入門は、この3人ボーカルの異物感に耳を慣らすところから始めたい。

AMARANTHEは2008年に結成されたスウェーデンの6人組で、女声クリーン・男声クリーン・デス声の3人ボーカル編成を看板にする。2024年の7thアルバム『The Catalyst』はBlabbermouthで10点満点中9点を得た。ポップな歌メロ・モダンメタルを1曲に同居させる作りを、15年かけて磨いてきたバンドだ。

3人ボーカルが速さを生む仕組み

普通のメタルなら、サビはメインボーカルが歌い上げ、デス声は間奏やブレイクの装飾に回る。デス声は飾りの位置から動けない。AMARANTHEはこの配置をそのまま崩す。

エリーゼ・リード(Elize Ryd)の女声、ニルス・モリン(Nils Molin)の男声、ミカエル・セリン(Mikael Sehlin)のデス声。この3人が、ヴァースとサビの単位で走者を替える。主旋律は4小節ごとに声を替え、その4小節のなかでさえ、半小節をセリンが奪って入る箇所がある。演出ではなく、構造である。耳が次の声を予測するより先に、フックの位置にはもう別の声が立っている。

バンドが掲げる「Massive Modern Metal」の”速さ”は、BPMの数値では測れない。声の立つ位置が4小節ごとに更新される、その更新の頻度が”速さ”の中身だ。リフのレイヤーを、そのまま声で置き換えていると言ってもいい。

ここで耳が割れる。3つの声を「賑やかさ」として聴くか、「リフがメロディーで歌っているのと同じ」として聴くか。後者に切り替わったとき、デス声はメロディーの裏に貼り付いた歪んだリフのように届きはじめる。

AMARANTHE入門——夜のステージを囲む観客の群れ
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結成から『The Catalyst』までの15年

オーロフ・モルク(Olof Mörck)とクリーン男声のジェイク・E(Jake E)が2008年にバンドを始めた頃、エリーゼはKamelotのツアーにサポートで帯同する若手だった。1stアルバム『Amaranthe』(2011)はスウェーデン35位・フィンランド16位のローカルなヒットにとどまる。流れを変えたのは3rd『Massive Addictive』(2014)だ。米ビルボードのヒートシーカーズ・チャートで初登場1位を取り、スカンジナビアのローカルバンドという括りがここで外れた。

3人で主旋律を分け持つ作りには弱点がある。誰か一人が抜けた瞬間、バンドが一度成立しなくなる。AMARANTHEはこの弱点を、15年で2度くぐっている。2017年、ジェイク・Eが脱退し、Dynaztyのニルス・モリンが代役からそのまま正規に収まる。2022年には、2013年から9年デス声を担ったヘンリク・エングルンド(Henrik Englund Wilhelmsson)が、家族との時間を優先して離れていく。

後任のミカエル・セリンが公表されたのは翌2023年6月のことだ。その声を最初に届けたのが、同じ日に公開されたシングル「Damnation Flame」だった。

『The Catalyst』(2024)は、新しい3声が1枚を通して鳴った最初の作品だ。エレクトロの比重を前作より重く乗せている。Blabbermouthのドム・ローソン(Dom Lawson)は10点満点で9点をつけ、「AMARANTHEがこれまで作った最高の1枚」と評した。2008年に組んだ3人ボーカルの枠をほとんど動かさず、それでも7枚目で批評的な最高評価を更新している。

AMARANTHE入門——コンサートライトに浮かぶパフォーマーのシルエット
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AMARANTHE入門に通したい3作

スタジオアルバム7枚から、最初に通す3枚を絞った。頭から順に舐めるより、方法論の違う3つの入口から入った方が、このバンドの幅は短時間で見える。

『The Nexus』(2013)は、3人ボーカルがまだ装飾に響いていたデビュー作から一歩抜けて、3つの声が曲のなかで役割を奪い合いはじめた最初のアルバムだ。タイトル曲のMVは、In FlamesArch Enemyの映像で知られるパトリック・ウラエウス(Patric Ullaeus)が撮った。ハリウッドのアクション映画の呼吸でメタルMVを撮る、当時のヨーロッパの空気がそのまま残っている。

🎬 3つの声が装飾を抜け、曲のなかで役割を奪い合いはじめた最初の一曲。走者を替えていく歌メロの速さに、まず耳を慣らしたい。

『Massive Addictive』(2014)は、アメリカ市場でバンドを押し上げた3rdだ。第1シングル「Drop Dead Cynical」が看板になった。MVはMMAファイターとチアリーダーと派手な火薬で組まれ、メタルの定型から外れた絵にSNSの賛否は激しく割れた。この曲では、3声が小節単位で入れ替わる方法論がもっとも明瞭に出ている。入門の一枚目に置くなら、これだ。

🎬 3声が小節単位で入れ替わる方法論が、いちばんくっきり出た看板曲。デス声がメロディーの裏でリフのように鳴る瞬間を、ここで確かめられる。

『The Catalyst』(2024)は、セリン加入後の初フル盤だ。エレクトロを増やしてもが食われない仕上がりに着地した。後半「Stay a Little While」ではピアノとエリーゼだけのバラードに振れて、3声フォーマットの外し方まで同じ1枚に入っている。

🎬 セリンの声を最初に世へ出した曲。エレクトロを重ねてもデス声が埋もれない、新体制の手応えがここにある。

🎵 新しい3声が1枚を通して鳴った最初のアルバム。エレクトロを重く乗せつつ、後半ではピアノとエリーゼだけへ振れ、3声の外し方まで同居する。
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「軽い」と切る前に

メタルの内側には、AMARANTHEへの根強い懐疑がある。ポップすぎる、シンガロングが甘い、エレクトロが入りすぎ。最初にひっかかる違和感は、だいたい固定されている。20年メタルを聴いてきた身にも、最初の数曲で全部わかった気になりかけた覚えがある。

“When they debuted in 2009 as a three-headed pop-metal singing machine, they were an acquired taste, but they’ve won a legion of fans by deftly sticking to a winning formula with enough reinvention to keep their music fresh.”

「2009年に『3つ首のポップ・メタル歌唱マシン』としてデビューした頃は、好みの分かれる存在だった。だが勝ち筋を巧みに守りつつ、音を新鮮に保つだけの作り替えは怠らず、彼らは膨大なファンを味方につけてきた」

— Louder(Holly Wright)

ジャンルの純度を守る派と、境界を動かす派、どちらが正しいかを論じる気はない。書き手として確認できるのは事実の側だ。3人ボーカルというフォーマットを15年ほとんど動かさず、それでも批評的な評価は最高値を更新した。方法論が一過性のギミックでなかったことを、バンドは15年かけて自前で証明したに等しい。

初めてメタルを聴く人にも、長く聴いてきた人にも、AMARANTHE入門の3枚は自分の耳の振れ幅を測る目盛りになる。合うか合わないかを決める前に、まず3つの声が走る曲を続けて浴びる。「賑やかさ」に聞こえていたものが「メロディーの構造そのもの」へ切り替わる瞬間が、聴き込むうちに訪れる。

AMARANTHE入門——ステージ前に集まる観客のシルエット
Photo by Valentin Lacoste on Unsplash
AMARANTHEは、メタルに正解が1つではないことを3人ボーカルという構造で示すバンドだ。耳の前に置いて、判断は続けて浴びてから下せばいい。

15年ひとつの枠を動かさず、それでも7枚目でいちばん遠くへ届いた。その一点だけで、この音は一度耳を通す値打ちがある。

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