ライブ・カルチャー用語辞典
現場には作法がある。暴れ方、サイン、化粧、地下の流通網、そして価値観——フロアとシーンで起きていることの名前を、その動きと意味で引ける。
該当する用語が見つからない。別の言葉で試すか、用語辞典トップから他の系統を引いてほしい。
モッシュMoshing
観客同士が体を激しくぶつけ合う踊り。行われる場所をモッシュピットと呼ぶ。1980年代初頭の米ハードコアパンク発祥とされ、のちにメタルへ広がった。
サークルピットCircle Pit
モッシュピットの一種で、参加者が円を描くように外周を走り回り中央を空ける形。激しくぶつかり合うモッシュより軽めとされる現場の定番フォーメーション。
ウォール・オブ・デスWall of Death
観客が左右二手に分かれ、合図で互いに突進してぶつかり合うモッシュの一形態。1980年代末から90年代の米ハードコア発祥とされる。
ステージダイブStage Diving
ステージから観客の上へ飛び込む行為。1970年前後からのイギー・ポップの実例が知られ、のちにパンクやハードコアの現場で広まったとされる。クラウドサーフの前段になることが多い。
クラウドサーフCrowd Surfing
人を観客の頭上で水平に持ち上げ、手から手へ運ぶ行為。1970年前後のパンク周辺で生まれ、イギー・ポップの実例が初期記録として知られる。
ヘッドバンギングHeadbanging
速い演奏に合わせて頭を激しく振る動作。1960年代末の欧米ロックで広まった。誰が始めたかには諸説あり、特定の発案者は定まっていない。
ホーンサインSign of the Horns
人差し指と小指を立てる手のサイン。メロイックサインとも呼ぶ。元はイタリアの邪視除け「マノ・コルヌータ」で、ディオが舞台で広めたとされる。
コール・アンド・レスポンスCall and Response
演者の呼びかけに観客が歌声や叫びで応える掛け合い。客席をライブの参加者へ変え、一体感を生む基本の作法となる。源流はアフリカ由来の音楽伝統にあり、ゴスペルやブルースを経て広く定着した。
興行の仕組み
出演順、曲順、そして「もう一度」。公演を成り立たせる裏側の言葉。ヘッドライナーHeadliner
公演やフェスの主役・トリを務める最大の目玉アクト。最後に最長尺で出演し、集客の中心となる。新聞の見出し(headline)が語源。
オープニングアクトOpening Act
ヘッドライナーの前に演奏する出演者。前座やサポートアクトとも呼ぶ。短めの持ち時間で客席を温める役割を担い、新鋭バンドが大観衆の前で名を売る登竜門にもなってきた。
セットリストSetlist
公演で演奏する曲目と順番を記した一覧。略してセトリとも呼ぶ。曲調とテンポの起伏で公演全体の流れを設計する台本であり、アンコールやMCの段取りまで書き込まれることもある。
アンコールEncore
本編終了後、鳴り止まない拍手や歓声に応えて行う追加演奏。語源はフランス語で「もう一度」を意味する。18世紀のオペラで始まったとされ、現在は演出として事前に組み込まれることが多い。
地下流通
レーベルもラジオも通らず、音源が国境を越えた回路の言葉。テープトレーディングTape Trading
カセットテープを郵送で交換し、デモやライブ音源を国境を越えて広めた文化。1980年代のアンダーグラウンドを支えた流通網で、メタリカのデモがデビュー前に世界へ届いた例が知られる。
デモテープDemo Tape
契約やライブの機会を得るために自主制作した音源。一般流通を前提としない。無名バンドがレーベルへ送る名刺代わりで、メタルではテープトレーディングを通じて評価を得る入口にもなった。
ファンジンFanzine
ファンが自主制作する非商業の小冊子。ファンとマガジンを組み合わせた造語となる。1930年代のSFファン発祥とされ、80年代にはメタルの地下シーンで無名バンドを世界へ紹介する媒体となった。
ブートレグBootleg
アーティスト非公認のまま流通する録音や映像。海賊盤とも呼ぶ。1969年のボブ・ディラン『Great White Wonder』が最初期の例として知られ、未発表音源やライブ録音がファンの間で取引されてきた。
ビジュアル・価値観
見た目と立場が語る所属。何を本物とみなすかという文化のコード。コープスペイントCorpse Paint
顔を白塗りにし、目元口元を黒く塗る化粧。死人や悪魔めいた風貌を狙う。主にブラックメタルで用いられ、メイヘムのデッドらが定着させたとされる。
バトルジャケットBattle Jacket
バンドのパッチやピンで埋め尽くしたデニムやレザーのベスト・ジャケット。愛聴歴と所属を背中で語るファンの戦闘服となる。バイカー文化を源流とし、NWOBHM やスラッシュ期の1980年代に定着した。
アンダーグラウンドUnderground
商業性や主流を志向せず、独立志向で活動するシーンや作風を指す。メタルでは反商業・「売らない」姿勢を核とする真正性の価値観と結びつく。
トゥルー/ポーザーTrue / Poser
本物のメタルヘッドと、外見だけ真似る「なりすまし」を区別する対概念。1970年代末から80年代に台頭し、反商業・真正性を軸とする価値観から生まれた。
メタルヘッドMetalhead
ヘヴィメタルを愛聴し、その文化を生きるファンの総称。ヘッドバンガーとも呼ぶ。長髪やバンドTシャツといった装いにとどまらず、本物であることを重んじる価値観の共同体を指す言葉でもある。

