ヘッドバンギングで首を痛めたあなたへ——整形外科医も知らない、メタラーの健康学

ヘッドバンギング 首 ── ヘッドバンギングで首を痛めたあなたへ——整形外科医も知らない、メタラーの健康学 メタラーの生き方
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ライブの翌朝、首が回らない。寝違えだと思って湿布を貼り一日休んだのに、二日目はもっと悪い。三日経つと、ヘッドバンギングで首をやった以外に説明がつかなくなっている。

整形外科に行っても「軽い筋筋膜性疼痛」「寝違え」と書かれた紙が出てくるだけ。ヘッドバンギングという単語を、医師は誰も口にしない。

2008年の『BMJ』論文と2014年の『The Lancet』症例報告が、ヘッドバンギングは首と脳に物理的負荷をかける運動だと記録してきた。耳の累積ダメージはWHO基準を軽く超える。やめる必要はないが、振り幅・頻度・耳栓の設計は要る。

ヘッドバンギングで首を振るとき、何が起きているか——BMJ論文の146BPM・75度

ヘッドバンギング 首——暗いステージを赤いスポットライトが照らす
Photo by Jeff James on Unsplash

2008年12月、英国の医学誌『BMJ』に「Head and neck injury risks in heavy metal: head bangers stuck between rock and a hard bass」という論文が載った。著者はオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)のデクラン・パットン(Declan Patton)とアンドリュー・マッキントッシュ(Andrew McIntosh)。観察研究と生体力学解析を組み合わせ、ヘッドバンギング動作にかかる頭部・頸部の負荷を定量化した、まとまった一本である。

結論はシンプルだった。ヘッドバンギング楽曲の平均テンポは146BPM。このテンポで首を75度以上振ると、軽度外傷性脳損傷(mild TBI)のHead Injury Criterionを超える。テンポと可動域の組み合わせがリスクを決めるため、ライブで上がるテンションのままヘッドが大きく振れた時間がどれだけ続いたかで、翌朝の首の症状はかなり説明がついてしまう。

論文の優れた点は、対策まで踏み込んでいることだ。可動域を狭める。ビートを半分(1拍おき)で振る。低テンポの曲では大きく、高テンポの曲では小さく。半ば冗談まじりにではあるが、ネックブレースの着用までが提案されている。研究者の到達点は「ヘッドバンギングをやめる」ではなく「振り幅と頻度を設計する」だった。

ライブ4週間後の頭痛——慢性硬膜下血腫の臨床例

ヘッドバンギング 首——夜のステージを囲む観客
Photo by Rafael Garcin on Unsplash

2014年7月、英国の医学誌『The Lancet』に短い症例報告が載った。著者はドイツ・ハノーバー医科大学(Hannover Medical School)神経外科のアリヤン・ピレイェシュ=イスラミアン(Ariyan Pirayesh Islamian)医師。患者は50歳の男性で、頭部外傷の既往はなかった。

2013年1月、頭全体に広がる頭痛が2週間続いた末に受診。頭部CTで右側慢性硬膜下血腫と顕著な正中構造の偏位が見つかった。男性は4週間前にモーターヘッド(Motörhead)のライブで激しくヘッドバンギングをしていた——それ以外に頭にかかった衝撃の心当たりはない。穿頭による血腫除去と6日間の閉鎖式硬膜下ドレナージで治療されている。

医学文献には他にも、ヘッドバンギングに伴う頚動脈解離・椎骨動脈の動脈瘤・基底動脈血栓症の症例報告が散在する。頻発するものではない。ゼロでもない。ライブの後で「頭が重い」「動かすと吐き気がする」が数日続くなら、自己判断で寝かせない理由としては足りる。

首より早く壊れるのは耳

ヘッドバンギング 首——強い光の前で重なるシルエット
Photo by Gabriel Mihalcea on Unsplash

頚椎は痛みで警告を出してくれる。耳はそれが遅い。気づいたときには不可逆に進んでいることが多い、というのが世界保健機関(World Health Organization、WHO)の繰り返しの警告である。

WHOのセーフリスニング基準では、生涯にわたって難聴リスクを「無視できる」と言える24時間平均曝露は70dBA以下。エンターテインメント会場の患者基準としては100dBA・4時間の曝露を年4回までを上限としている。ライブハウスやアリーナの音圧は平均115dB近い数字が珍しくない、というのが現場の測定値である。

計算するまでもなく、フェスを年に何本も回るならばWHO基準は軽く突き抜ける。突き抜けたからといって翌日に難聴が出るわけではないが、累積で内耳の有毛細胞は確実に削れていく。耳栓を「音が変わる」「迫力が落ちる」と嫌う気持ちはわかる——だが、ハイファイ系のフラット減衰タイプ(ER-20XSやLoop Experienceの類)は周波数特性をなだらかに下げるため、音楽の輪郭はかなり残る。

続けるための実装——首と耳を守る具体策

ヘッドバンギング 首——ステージでマイクを握る人物のシルエット
Photo by taylor on Unsplash

ヘッドバンギングをやめる気はない。ライブの最前列で全身を振る快感のために音楽を浴びている人間に、振るなと言うのは筋違いだ。問題は、振り幅と頻度を設計しているかどうかにある。

首について実装できることは少ないが効く。ライブ前に首と肩を回す。低テンポの曲で大きく、高テンポでは振り幅を半分にする。最前列にしがみつき続けて2時間振らない(途中で後方に下がるか、体を休める段を一つ作る)。ライブ後は熱いシャワーで僧帽筋を温め、寝る前に水を多めに取る。翌朝も首が動かないならBMJ論文の存在を整形外科で伝えるといい——診察の方向が早まる場合がある。

耳について実装できることは決定的だ。ライブ用にハイファイ系の耳栓を一組常備する。会場に着いたら早めに装着し、違和感が消えるまで30秒待つ。生音や繊細なドラムは抜ける範囲で残るため、爆音バンドのライブほど効果がはっきりわかる。年に一度は耳鼻科で純音聴力検査を受け、4kHz付近のディップが出ていないか確認する。

整形外科の医師も耳鼻科の医師も、ヘッドバンギングを臨床のフレームでは見てくれない。診断書の病名は別の言葉で書かれる。論文の事実は変わらないため、こちらが知って通えば医療の側も応答する。

続ける気がある人ほど、ライブの前後の30分を新しく作るようになる。首を回す。耳栓を出す。水を飲む。聴く時間はその分減らない。痛みのない翌朝の首が、次のライブの予定を空けてくれる。

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